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短編集・読み切り



《Q2 なれるなら、どちらを選ぶ?

 人間を射精するレベルで欲情させられる

 淫魔or淫魔を狂わせる程の匂いを発する

 フェロメニア》


「ゴホッ、ゴホッ!」

「おい大丈夫か、桐生?」

「うん、大丈夫…」


 ウーロン茶を啜っていた桐生は文章を読

むなり気管にお茶が入って涙目になって咽

る。

 咳き込みながらもその瞳孔は開いていた

が、腕組みして悩む隣の2人は気づいてい

ないようだ。


「淫魔っていうくらいだから魔物だよね?

 フェロメニアって何だろう?

 人間?」

「に、人間じゃないかな…。

 匂いがちょっと他の人と違うだけで」


 首を傾げる岡本の疑問に桐生が控えめな

声で答える。

 それを聞いた吉光がすぐに答えを決めて

口を開いた。


「なんだ、ただの人間かぁ。

 じゃあオレ、淫魔。

 射精レベルで欲情させられるってスゲー

 便利。

 泣くほどイキまくらせたい」


 ぐっと拳を作って目を輝かせる吉光の横

で桐生が俯いたまま小声で“ぅっ”と呻く。


「僕はフェロメニアかなぁ。

 でも高取君が淫魔だったら、だけど」

「…お前、本当に高取好きな」

「うん?うん」


 岡本の真意がフェロメニアになって高取

を自分の色香で狂わせたいという風にも吉

光には聞こえたが、無邪気な顔で頷く岡本

に問いは重ねられなかった。


「桐生は?」 

「……淫魔」


 俯いたまま少し長めに沈黙した桐生は吉

光に問いかけられてそう答えた。


「そうだよなっ。

 やっぱり淫魔の方が色々と便利だと思う」

「いや…フェロメニアなんて、なっても良

 い事ないから」


 うんうんと頷く吉光に桐生は心骨染み入

る声で呟くように答えただけだった。


《Q3 セックス未経験のあなたは同性の

 友達に欲情しました。

 性器を挿入したい?挿入されたい?》


「っ!!

 したいに決まってるし!!」


 打って響く速度で吉光が反応した。

 その反射とも言える速度に桐生は驚いて

瞬きし、岡本は相変わらず笑っているだけ

だった。


「ふふっ。即答だね、吉光君。

 僕が欲情するのって高取君だけだから、

 僕は高取君にいっぱい射精して欲しいか

 な。

 高取君に一日中僕の中で気持ち良くなっ

 てもらえたら、僕それだけで溶けちゃう

 くらい幸せだよ」


 想像したのかうっとりとした目で頬を染

める岡本とハンターの光を目に宿して拳を

作る吉光を、桐生はどこか遠い目で眺めた。

 それが彼らなりの幸せならば、それが正

しい答えなのだろう。

 だが。


「桐生は?」

「…どっちも嫌だ。

 俺は友達のままでいたい」


 今ある平穏な幸せを手放してまで快楽を

欲しない。

 欲情から目を背けたままでいられるなら、

目を背けていたい。

 なかったことにしたい。

 だってそのままで十分に幸せだから。

 “友達でいたい”

 桐生の言葉に吉光は握りしめていた拳を

解いた。

 願って叶うなら、時間を巻き戻したい。

 友達のままでいられた、その瞬間まで。

 お互いに欲情して不毛な駆け引きをしな

ければならなくなる分岐点の手前まで。

 それこそ決して叶わない願いだけれども。


《Q4 気づきましたか?》


「は?

 何だ、この質問。

 質問になってねーし」


 唐突に意図の理解できない質問に切り

替わって吉光が唸る。

 その隣で岡本が顎に手をあてながら静か

に呟いた。


「気づいたって、どれの話なのかな?

 それとも、全部…?」

「何か気づいたことでもあった?」


 問いかける桐生に岡本は顎から手を離し

て語り出す。


「今までの質問って、きっと僕達に関わる

 ことだよね?

 同性の友達って、たぶん吉光君と島崎君

 の事だろうし。

 淫魔とフェロメニアっていうのはよく分

 からないけど…」


 “あなたに関わる事でしょう?”と岡本

は桐生を真っ直ぐ見つめた。

 それに桐生は答えなかったが、その表情

には明らかな動揺が浮かび言葉より如実に

語っていた。


「…ってことは、やっぱり最初の質問って

 岡本の」

「うん。

 あれは高取君と僕の話だね。

 その効果のほどは、吉光君もよく分かっ

 てるんじゃなかな」


 驚愕し震える声で尋ねた吉光に先程まで

と一寸も変わらぬ笑顔で岡本が肯定する。

 敢えてそれに気づかぬように答えていた

はずなのに、最初から全て見透かされてい

たと知った吉光は背筋に冷たいものを感じ

た。

 引きつる喉でようやく唾を飲み込む。

 尋ねてみるなら今しかない、と頭の中で

アラームが鳴り響いた。


「恨んでいるだろう、俺達の事。

 お前を…お前の人生を無茶苦茶にした、

 あの夜の事」


 高取に誘われるまま集い、泣き叫ぶ岡本

を力づくで抑え込み、抵抗どころかその目

が光を失うまでかわるがわる犯し続けた、

あの悪夢の夜を。

 吉光は未だにあの夜、どうして高取の誘

いにのってしまったのかと悔い続けている。

 いつもの自分ならあんなことには絶対に

頷かない。

 まして被害者が失神するまで犯し続ける

なんて正気の沙汰ではないとも思う。

 けれど、あの夜は何故か頷いてしまった。

 夜が明けて家に帰り泥の様に眠って目覚

めるまで、あのおぞましい行為を“おかし

い”と感じることができなかった。

 しかし感覚が麻痺していたなんて言い訳

は被害者である岡本に言った所で自己満足

にしかならないから、今まで詫びることす

ら出来ずにいた。

 あの夜さえなければ全ては狂わなかった

のにと後悔しても、そもそも自分が加害者

だと思い出すとそれも罰なのだと呑むしか

なかった。

 でも、今なら詫びられる。

 不思議とそんな気がした。


「最初はね。

 でも、今は良かったと思ってる。

 僕は一番欲しかったものを手に入れられ

 たから」


 岡本は笑顔を崩さないまま何でもないよ

うに頷き、やがて言葉通りに満足そうに微

笑んだ。


「吉光君には感謝してるんだよ?

 悪ぶってるけどなんだかんだで優しいし、

 あの時高取君を説得してくれたのも吉光

 君だって高取君から聞いたから」

「べ、別に悪ぶってねーし」


 ただあの夜の罪悪感から、あまり岡本が

望まぬことを強要したくなかっただけだ。

 高取を焚きつけたのだって、結局は高取

に指摘された通り自分の為だ。

 結果的にそれが岡本を救ったというだけ

のことで。





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