[携帯モード] [URL送信]

短編集・読み切り



 そんなやりとりをしている間に家に辿り

着いてしまった。


「……」


 オレが足を止めると島崎も立ち止まり、

立ち止まったままのオレを不思議そうな顔

で見下ろしてくる。

 『吉光』の表札がかかった家の前で“家

へ入らないの?”と言いたげな眼差しだ。

 が、家の前まで来てやっぱり島崎を家へ

入れてもいいのか不安になってきた。


「ホントに一杯だけだからな」

「分かってるってば。

 そんなに心配しなくても大丈夫だって」


 チ●コ脳のお前だから心配してんだよっ!

 仮にも友達相手にあまり警戒心剥き出し

なのもどうかと思うけど、二人きりになる

や性欲優先になる島崎をどうも信用しきれ

ない。

 それもこれも夏休みの一件があったから

だが。

 しかしただ念押しを繰り返しても仕方な

いと気持ちを整理して家の鍵穴に鍵を通す。


「お邪魔しまーす」

「あんま片付いてないから、それは覚悟

 しとけよ」


 家の鍵を鞄の中に放り込みながら先に靴

を脱ぐ。

 そもそも外泊の言い訳に使わせてやるこ

とはあっても本当に友達を家へ上げること

はほぼない。

 まして前もってそういう約束もなく家に

上げたのは、どれぐらいぶりだろうか。


「あーうん、平気。

 俺の家もゴチャゴチャしてるし、俺そう

 いうの気にしない」


 そう言って島崎は靴を脱いでリビングに

向かうオレの後ろをついてくる。

 島崎の家はどちらかというと暮らす人が多

い故に色んな物が増えたって感じの散らかり

方だが、オレの家の散らかり方は親の仕事が

休みになるタイミングでまとめて家事をこな

すサイクルであるが故の散らかり方だ。

 まずはリビングのソファに島崎を座らせて、

テーブルの上に拡げられていた新聞やら雑誌

をまとめて廃品回収用のボックスへ放り込む。

 島崎は落ち着きなくあちこち見回している

が、物珍しい物など何一つないはずだ。


「なんだ、片付いてるじゃん。

 俺の部屋より綺麗だ」

「お前の部屋より汚かったらお前を入れた

 りしねーし。

 急な来客に対応できるほど片付いてねー

 ってだけ」


 片づけの苦手な島崎の部屋はマンガやら

何やらがあちこちに点在していたりする。

 汚いわけではないが、あの部屋を見ると

島崎の成績がアレなのも分かる気がする。


「じゃあお茶持ってくるから。

 麦茶でいいよな?」

「うん」


 素直に頷く島崎を残してキッチンへ向か

う。

 一瞬だけ来客用の湯呑みを使おうか迷っ

たが、そこまで改まった関係でもないし島

崎は質より量だと適当なマグカップを二人

分とってそれに冷蔵庫で冷えていた麦茶を

注ぐ。

 菓子置き場から適当に個包装のチョコレ

ートケーキを2つ掴んでトレイにのせ、麦

茶と共にリビングへと運んだ。


「ほら」

「おぉ〜。ありがと」


 麦茶のマグカップとケーキを目の前に出

してやったらちょっと嬉しそうな顔をされ

た。

 そういえば遅くともそろそろ夕食の時間

だったと思い出す。


「さっさと飲んでさっさと帰れよー」

「うっ…そんな何度も言わなくても」


 サラッと念押ししたら早速ケーキの小袋

を手に取った島崎が渋い顔をする。

 だが性欲バカ相手にしているのだからこ

のくらいで丁度いいと思う、うん。


「ちゃんと女装用の服のアテ考えとけよ。

 勝負は勝負だったんだから」

「そうだけどー…」


 追い打ちを掛けるとますます島崎の表情

が曇るけど構ってもいられない。

 このくらい釘を刺さなければ安心できな

い。

 本来招くはずのなかった島崎が家の中に

いるせいか妙に落ち着かないのだ。

 まぁ175センチのガタイの島崎に似合

う女服なんてそのへんにはないだろうし、

たとえ着られたとしても笑い話のネタにし

かならないだろうけど。

 本音で言えば“ケツにローションのボト

ルを突っ込んで”という部分だけは撤回し

なくもない。

 いくら勝負に負けた罰ゲームだとしても、

実際に実行するとなると厳しいだろうなと

も思うし。

 指を入れただけで勃起チ●ポを萎えさせ

て泣き言を言っていた島崎のケツをあの大

きさまで慣らさなきゃならないのは骨だと

も思うし。

 …さすがにケツ穴切れてもいいからとボ

トルを突っ込めるほど鬼にはなれない。

 そのあたりはまぁ…別の条件をチラつか

せてそっちに喰いつくのを待ってみようか、

とは思っていたりするのだが。


「ねーねー、ミツはハロウィンに仮装した

 りするの?」

「仮装って…まさかコスプレして街をゾロ

 ゾロ歩くアレに参加するかってこと?

 やだよ、面倒くさい」


 祭り好きなヒデやナンパ目的の野坂や尾

山なら喜んで参加するかもしれない。

 だがこの肌寒くなってきた時期にわざわ

ざ面倒な仮装メイクして夜の道をゾロゾロ

と練り歩いて何が楽しいんだとオレは考え

る人間だから。

 そんな面倒なことをわざわざするくらい

なら、ソファに寝転んでテレビを見るかマ

ンガを読んでいたい。


「島崎こそ、仮装して歩くの?」

「いや、ミツが出ないならいいや」


 …何、それ。

 オレが出ないから何だっていうんだ。

 島崎が参加するならヒデは喜ぶだろう。

 むしろもう誘われていてもおかしくない

はずだ。


「オレがそういう面倒なの嫌いだって知っ

 てるだろ。

 オレに構わず行きたきゃ行けばいいのに」

「いや、別にしたい仮装とかもないしさ。

 ただミツが参加するなら見てみたかった

 だけで」


 オレの仮装姿なんか見てどうするんだ。

 写メでも撮ってバラ撒く?

 いや、もし仮にメイクが失敗したとして

も島崎の女装より全然インパクトない気が

するけど。


「期待されても出ないからなー、面倒くさ

 い。

 さっさとそれ食べれば?」


 ケーキの袋を破ってケーキにかぶりつき

ながら島崎の仄かに期待帯びた視線を流す。

 ケーキの表面を覆うチョコレートが甘く

苦く舌先に纏わりつく。

 オレに促されて島崎はようやく自分もケ

ーキに口をつけた。


「ヒデに誘われたんじゃないの?」

「え?」

「一緒にハロウィン行列に参加しようって」

「うん、まぁ…」


 こちらから話を向けてやったら、やはり

島崎は否定しなかった。

 ヒデだってどうせ参加するなら友達と参

加したいと思うだろう。

 野坂や尾山はすぐに女に目移りしてさっ

さとナンパしに行ってしまうから、傍にい

てくれる友達が欲しいはずだ。

 高取はそういうノリが悪いから基本不参

加だし、九条は門限が厳しい。

 オレは面倒くさいのが嫌いだから、結果

的に島崎に白羽の矢が立ったのだろうとい

うのは想像に難くなかった。

 まぁヒデは社交的な方だから、いつもつ

るんでいるメンツでなくてもクラスメイト

達が参加していたら自分から輪に入ってい

けるとは思う。

 とはいえ、あの人ごみの中で運よくクラ

スメイトに遭遇する確率はといったらそれ

ほど高くないとは思うけど。

 チョコレートの甘さを麦茶で洗い流して

ホッと一息ついた。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!