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短編集・読み切り



「お前、オレに隠してることあるだろ」

「ん??隠し事?」


 もう苛々して仕方なくて、その話題を切

り出してしまった。

 島崎の口から女の方がいいとハッキリ聞

いたら、きっと胸の内のモヤモヤは消える。

 すぐには無理でも、一つ残らず心の中か

ら追い出してみせる。

 練習台にするなと島崎をボコボコにして、

今までの不毛な関係は終わりにできる。

 そうしてバカ騒ぎしていた毎日に戻れる。

 性欲なんてただの友達には似つかわしく

ない感情は、たとえ島崎自身から向けられ

たとしても全てブロックしてみせる。

 だから言え。

 それで終わりにしよう、こんな関係は。


「野坂に相談したんだろ。

 ヤリたいけどヤラせてくれない年上の女

 をどうやったら落とせるかって」

「うん…うんっ!?」


 睨むオレの目の前で島崎の表情が変わる。

 突然慌てた顔つきになって、勢いよくブ

ンブンと首を横に振る。


「確かに相談はしたけど…!

 年上の女って野坂が勝手にイメージして

 るだけだし!

 訂正したかったけど、どう訂正したらい

 いのか分かんなくて」


 視線を泳がせる島崎の顔が見れば見るほ

ど浮気がバレて言い訳をしている男の顔に

見えてきて余計にイライラする。

 そんな顔をする島崎も、そんな事を友達

に問い質さないといけないオレ自身も。


「訂正って、何。

 年上じゃなくて年下だとか?

 お前、女の子好きじゃん。

 学校でも街中でもスカート短ければすぐ

 目で追いかけるしさ。

 そういう相手がたまたま年上だったって

 だけだろ」

「そうだけど、それはもう癖っていうかな

 んていうか…!

 いや、そうだけどそうじゃなくて…!」


 島崎は言い訳にもならない言葉を並べる

が、それはオレを納得させる文章には到底

なっていない。

 浮気した男ってこういう風になるのか、

それとも島崎が突き抜けてバカなのか。

 …いや後者かな、うん。


「と、とにかくここじゃなんだからミツの

 家に行っていい?」


 テンパっていたかと思えばオロオロし始

めて、もう夜も更けて人通りのない道を気

にするようにキョロキョロする。


「なんで。

 いいよ、ここでハッキリ言えばいいだろ」


 “家まで来るな”

 そう強く念じながら睨む。

 ここでキッパリサッパリして、また月曜

日と別れるのが一番いい。

 島崎の本音を確認して一発殴ったら、月

曜日には平気な顔して登校してやるから。


「ハッキリって…。

 だって、言えなかったし」


 困惑しながら頬をポリポリと掻く島崎は

頭を絞って言葉を選んでいるようだ。

 が、それはオレの神経を見事に逆撫でし

た。


「言えないって…なに。

 お前が好きなのはもともと女の方だろ。

 それが、何で今更言えなくなんの。

 言ったらオレで練習出来ないとでも思っ

 たの?」


 だから黙ってたのか、わざと。

 腹の底から怒りの感情が煮えたぎってく

る。

 握りしめる拳が小刻みで震えだした。

 一発殴って許してやろうかと思ってたけ

ど、もしかしたらボコボコにしないと気が

済まないかもしれない。


「練習…?えっ、何の話?」


 オレの雰囲気にただならぬものを感じと

ったのか、島崎はビビりながら半歩ゆっく

り後退する。


「野坂にアドバイスされたんだろ。

 年上の女で本番に挑む前に手近なところ

 で練習できたらもっといいって」


 睨んだまま逃げ腰な島崎の方への一本踏

み出すと、島崎はオレよりデカイ図体でビ

クッと肩を震わせる。


「ちょっ、ちょっと落ち着こうか、ミツ。

 なんかものすごく誤解してる気がする…!」


 こちらに両手の掌を向けてオレを押し止

めようとする島崎はムカつくけど、誤解と

いうからには弁解を聞いてから殴っても遅

くはないと拳を握りしめたまま島崎の次の

言葉を待つ。


「えっと…、そもそも年上の女っていうの

 が野坂の勝手な想像で…。

 俺も否定すれば良かったのかもしれない

 けど、そうなると迷惑になるかもって思

 ったら言えなくて。

 だから結局そのままになって…」


 ポツリポツリと言い訳を口にする島崎は

ちっとも核心に触れず、待たされている此

方がイライラしてくる。

 言い訳するならもっとしっかり言い訳し

ろ!


「年上の女が野坂の想像だとしても、オレ

 にはどうでもいい。

 タメだろうが年下だろうが、誰かの彼女

 だったとしてもどーでもいいっ。

 オレが言いたいのは、どっかの誰とセッ

 クスする為にオレで練習しようと、んぐ

 っ?!」


 腹の底で渦巻くものを吐き出して島崎に

ぶつけてやろうとしたら慌てた様子の島崎

の掌に口を押さえつけられた。

 何するんだと噛みついてやろうとしたけ

ど、自分の唇に立てた人差し指を押しあて

て“シーッ”とジェスチャーしながら暗い道

路をあちこち確認するのを見て思い止まっ

た。


「ミツの家ってこの近所でしょ?

 あんまり大声出すと誰かに聞かれちゃう

 よ」


 苛立って無意識で声がどんどん大きくな

っていたらしい。

 確かにご近所連中にこんな話は聞かせら

れないと、オレもちょっと冷静さを取り戻

す。

 でも島崎に礼を言えるほど心は凪いでは

いなかった。


「その…女じゃないって言えなかった。

 年上っていうのは、俺から聞いた話から

 野坂がイメージしたんだと思う」


 女…じゃない?


 島崎の声はひそめられているけど、どこ

かまだオレが叫んだりしないかと緊張して

いるように見える。

 だが、俺は思いがけない方へと話が反れ

て握りしめた拳の向かう先を失っていた。

 女でないというなら、誰だ?

 島崎が抱いた同性なんて岡本しか知らな

い。

 そもそもが異性好きな奴だから、いくら

チ●ポ脳でも誰彼構わず欲情するほど節操

なしでも無いはず…なのだが。


「…誰、それ」


 いつまでも離れない島崎の手を押し退け

て問う。

 もうこの際それが女だろうと男だろうと

関係ない。

 誰とセックスする練習台にされそうにな

ったのか、それを知る権利はオレにあると

思う。





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あきゅろす。
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