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短編集・読み切り



 苦笑いながら肩を落として戻ってくる野

坂は島崎とすれ違うタイミングで島崎とタ

ッチを交わして戻ってくる。


「野坂」

「ん?」

「手、抜いたでしょ」

「いや、指が滑ったんだって」


 軽く笑って流そうとする野坂を黙ってジ

ト目で見続けていると、自分の鞄を担ぎ上

げた野坂が居心地悪そうにため息をついた。


「…んな怒るなよ。最後のだけだって。

 なんか分からんけど、島崎も必死だった

 しさ。

 何か知らんけど、お前らもさっさと仲直

 りしろよ。

 お前ら仲悪いとやり辛いったらねー」


 こういう奴だ。

 理由は分からない、詮索もしないけどこ

じれない距離感を保ってくる。

 これが岡本や高取が相手だと何故あんな

風になるのかは分からないけど、つまり性

欲という本能が暴走するとそのあたりの感

覚が狂うのかもしれない。

 …なんて、何であんなに上手く隠したつ

もりだったのに見破られているんだろう。

 別に喧嘩じゃないし、そもそも言い出し

たのもオレの条件を呑んだもの島崎だけど。


「まー、島崎も目覚めた顔してるし案外最

 後もストライク出すかもしれねーよ?

 そうしたら島崎の勝ち確定なんだから、

 そうカッカすんなよ」


 ついさっきまでカリカリしていた尾山に

までそんなことを言われると、ますます何

も言えなくなる。

 尾山は島崎の失点分を取り戻すのに随分

と難易度の高いプレイをしたのにも関わら

ずに、だ。


「あ、投げた…!」


 ヒデの声に皆の視線が一気にレーンの上

を滑るボールにの軌道を追う。


 ――…ガコガコガコーン!!


「あーっ!」

「ターキーっておい!」

「島崎ーっ!!テメ、このやろ…!!」


 ボールとピンが全て奥へ回収されてレー

ンへと尾山が走っていって安堵してヘラヘ

ラ笑っている島崎の首へ腕を回してグイグ

イ絞める。

 どさくさに紛れて野坂に髪をぐしゃぐし

ゃにされてるけど、まぁ島崎が揉みくちゃ

にされる分にはどうでもいい。


「さ、出よう!

 延長料金かかっちゃうよっ!」


 ヒデの掛け声でようやく時間を思い出し

た3人が慌てて荷物を掴んで走ってくる前

にオレはさっさと廊下へ出た。




「…何処までついてくんの」


 ボーリングの後で島崎はジュースを全員

に奢って、今日はそのまま解散になった。

 しかし学校を挟んで反対方向の帰路のは

ずの島崎がいつまでもついてくる。


「何所までって言われても。

 とりあえずミツの家?」


 オレの後ろを歩きながら首を傾げている

島崎の頭をどつきたくなる。

 足を止めてくるっと背後を振り返ると、

きょとんとした顔で立ち止まる島崎と視線

が合った。


「オレの家、親がいたらどうすんの。

 言っとくけど、勝負は勝負だからね。

 ターキー出したからって無効だから。

 女装の為の服はちゃんと誰かに借りてお

 いてよ」

「うっ…。

 それはそれ、なんだけどさ…。

 なんか怒ってるよね?」


 ちょっとビビったような顔でオレの顔色

を窺う島崎の視線がウザい。

 オレよりでかい図体で縮こまって、まる

でオレがいじめてるみたいじゃないか。


「なんで怒ってるなんて思うの。

 オレを怒らせた心当たりでもあるの?」

「ない、けど…。

 でも最後までさせてくれとか抜きっこし

 よって言った時とか、変な顔してたし」


 そりゃするよ!

 むしろ呆れずにあれが聞けるかっ!!


 静かな夜の住宅街でなければ叫んでいた

かもしれない。

 いや、何処だとしても叫ばないけど。

 叫べないけど!

 そもそもオレにそんな顔をされるってわ

かってるくせに言い出す島崎の気が知れな

い。


「なんか分からないけど、怒らせたなら謝

 りたいし誤解なら解きたいし。

 うー…とりあえず、機嫌直してほしいな

 ぁって」


 胸のあたりがムズムズする。

 オレの事は好きだけど、それが友達とし

ての好きかそれ以外の好きか分からないま

まにしてる島崎。

 その気になればオレを押し倒して無理矢

理してしまえるくせに、オレの顔色をビク

ビクと窺う島崎。

 オレの嫌がることはしないと言ってたく

せに、そのわりに指は入れるわ抜かないわ

で結局は自分の欲を優先させる島崎。

 何も知らなかった、ただの友達にはもう

戻れないジレンマ。

 けれど全てを割り切って線引きして、い

っそと思い切ってもしまえないもどかしい

胸の内。

 全部が渦巻いて胸を掻き毟りたくなる。

 いっそ二人一緒に記憶喪失になって、全

てが狂ってしまう前に戻れたら…そんな妄

想にも囚われる。

 そうしたら島崎が誰を見ようと好きにな

ろうと、きっと何も思わなかったのに…と。

 もし島崎に今までの全部を無かったこと

にしようと言ったらどんな反応するだろう

か。

 困惑?怒り?諦め?

 きっとどんな反応をされてもオレはイラ

イラする。

 自分でも理不尽だと思うけど。

 でも、それが本音だから。


「今夜、親帰ってくるから。

 もう家に帰れよ」


 嘘だけど。

 父親はずっと単身赴任だし、キャリアウ

ーマンの母親は今夜も会社に泊まりだ。

 今夜、島崎と二人きりになったらきっと

酷い言葉を投げつける。

 今夜は頭を冷やして、事実確認は日を改

めたい。

 もともと異性にしか興味のない奴だった

から、今更年上の女を好きになろうと不思

議じゃない。

 いや、むしろそれが普通だ。

 今までがおかしかったんだ。

 みんなでクラスメイトをよってたかって

犯すなんて、そのほうがよほど頭がイカれ

ているのだ。

 だからそれから派生した関係は清算され

るべきなのだ。

 感情も期限も線引きできないなら、なる

べく早く断ち切らなければいけない。

 考えてみれば、これはいいきっかけなの

かもしれない。

 事実がどうあれ、歪んだ関係を修正する

のには絶好の機会じゃないか。


「…ミツは本当に帰ってほしい?」


 島崎もおかしなことを訊く。

 親がいるから帰れと言ってるのに、オレ

の希望なんて関係ないじゃないか。


「親、いるって言ってるだろ。

 オレがどうとか、そんなの関係ないし」

「ミツが嫌なら俺の部屋でもいいけど。

 ここまで来たんだし、着替えとか取りに

 戻るなら待ってるけど」

「だから…っ!」

「尾山と野坂が言ってた。

 ミツが親からの電話をとってくれるから

 今夜も朝まで遊べるって」


 いっそ理由なんてどうでもいいから帰れ

と言ってしまえればよかったのかもしれな

い。

 けれどそれを渋ってぐずぐずしていたら、

島崎に先に言われてしまった。

 島崎は最初から知っていたのだ。

 今夜もオレの家には親が不在だと。

 だからオレについてきた。

 野坂と尾山のバカヤロウと心の中で吐き

捨てる。

 八つ当たりと分かっていても、空気を読

めと言いたかった。

 島崎は島崎でこういう絶妙なタイミング

でヘタレ具合を発揮しないから余計にムカ

つくのだけど。





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