短編集・読み切り ● ギシッ 上半身を投げ出された衝撃と投げ出され た何かが軋む音に、泥の淵で揺らいでいた 意識を強引に引っ張り上げられた。 覚醒するや後頭部に重い鈍痛がのしかか ってくる。 瞼を開いても視界が真っ暗なのは目隠し をされているからだと未だに鈍い思考で理 解する。 とにかく起き上がろうと手をつこうとし て、背中の向こうに回された手首がビクと もしないことに気づいた。 頭痛は連日の睡眠不足が原因ではないの ではないかと思い当たったのは、そんな状 況下で背後にはっきりと人の気配を感じた からだ。 カチャカチャとどこか耳慣れた金属音が 埃っぽい部屋の空気を揺らす。 それがベルトを解く音だと気づいた時に はもうベルトは抜き取られて、何故という 問いが追いつくより先に下着ごとズボンを 引き下ろされていた。 冷たい床に膝をついているからズボンは 膝のあたりまで落ち、剥き出しの尻が空気 に触れた。 背後にある人の気配が僅かに嗤ったよう な気がする。 遠い昔に覚えがあるような、そんな嗤い だった。 [*前][次#] |