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短編集・読み切り
◆オマケ


「まさか高取と同じ大学に行くつもり、と

 か…?」


 問うた途端、俯いたままの岡本の耳が真

っ赤に染まる。

 校内でも進学を機に離れ離れになるのを

嫌がるカップルが同じ大学を目指すなんて

よく聞く話だ。

 現実的な問題として学力の差はそう簡単

に埋まるものではないが、学力の高い岡本

が高取の進学先を目指すのであればその逆

を目指すよりはだいぶ現実味を帯びる。


「高取ってそんなに頭良かったっけ?」


 あえて俺が言わなかったことを島崎が空

気を読まずにずけずけと岡本に問いかける。

 岡本は自分のことを貶められることには

慣れているが、高取を悪く言われれば内心

穏やかではないのではないか…。

 が、それは杞憂に終わった。


「あの、でも…今の内から勉強すれば間に

 合うかなって」


 岡本の声は消え入りそうなほど小さいが、

それが本心であることは容易に知れた。

 本を握りしめる手に力が籠っている。

 いつも遠慮して他人を優先する岡本が見

つけた細やかな願望なのかもしれない。

 …高取がすんなりそれを受け入れるかは、

また別の話だが。


「間に合うかなー?

 だって高取ってテストの点数そんなに良

 くな」

「お前が言うなよ…」


 赤点追試のせいで盆の帰省に同行できな

かった島崎にそんなこと言われたら、さす

がに高取だって怒るだろう。

 俺が同じこと言われたら島崎の眉間に拳

を押し付けてグリグリしてやるだろうし。


「だ、大丈夫だよっ。

 高取君、ホントは頭いいし!

 授業中だってほとんどノートとってない

 のにテストだって平均点近くとってるん

 だから」


 岡本は大真面目な顔でフェローと言うに

は微妙なことを力説している。

 岡本は成績はいいくせに、こういう所は

どこか抜けているらしい。

 ただ一つだけ変わらないのは、どこまで

も岡本の世界の中心にいるのが高取だって

ことだ。

 傍から見ていると、呆れるくらいに。


「じゃあ、まぁ勉強頑張って。

 島崎、行くよ」

「え、だけど」


 きょとんとした顔でまだ何か聞き出し足

りないらしい島崎の腕を引っ張って、その

耳元に囁く。


「さっさと帰らないとゼラチン溶けちゃう

 んじゃない?

 岡本に気づかれてもいいならいいけどさ」

「っ!」


 ようやく自分のケツに突っ込まれたまま

のグミの存在を思い出したのか島崎の体が

ビクッと震える。

 恐らく、今島崎のケツがキュッと締まっ

たはずだ。

 泣くほど嫌がっていたはずなのに、慣れ

とは恐ろしいものだなと思う。

 物足りなさそうだから、帰ったらもうち

ょっと太い物を突っ込んでやろう。うん。


「じゃっ、じゃあな、岡本!

 応援してるから!」

「う、うんっ。ありがとう…!」


 ひきつった笑顔で片手を上げる島崎の心

境など知るはずもない岡本は、島崎が理解

してくれたとでも思ったのか明るい笑顔で

手を振り返す。

 二人の温度差がおかしくて思わず口の端

で笑ってしまいながら岡本と別れる。

 こうして夏の夜は深けていった。




             END










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