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短編集・読み切り
◆オマケ


「ミツ〜…」


 レンタル商品を手に取って迷っている俺

に島崎が情けない声を出す。

 この店舗はレンタル商品を取り扱ってい

るコーナーと書籍を販売しているコーナー

に分かれていて店舗としても広い上に深夜

を回っても営業している暇な学生たちにと

っては利用しやすい店だ。

 夏休みとはいえ深夜ともなれば客足はま

ばらで、夏に人気のホラーコーナーにも俺

たち以外の人影はなかった。

 ただ島崎が情けない声を出しているのは、

島崎の苦手なホラーコーナーにいるからで

も他に客がいないからでもない。

 今でも真っ直ぐ立てていない島崎のケツ

穴には駄菓子の棚で売られていた長細いグ

ミが入っているからだ。

 今夜は島崎の家へ泊まり込んで3日目の

夜、島崎の家族は盆で田舎に帰省中だ。

 俺の意思を無視して俺のケツに指を突っ

込んだ仕置きとして、島崎のケツ穴に俺が

思いついた物を突っ込んで遊んでいる。

 今はもう本気で島崎のケツ穴を拡張して

やろうとまでは思ってないけど、ケツに突

っ込む物のサイズをちょっとずつ大きくし

ていくことで島崎が心底ビビるのを見て溜

飲を下げるのが密やかな楽しみだ。


「…ちゃんとケツ締めておかないとパンツ

 濡れるよ?」


 ゼリーはゼラチンで固められているが、

ゼラチンは体温で温め続けると溶けてくる。

 しっかりとした固形物を突っ込まれるの

は島崎が顔を真っ青にして土下座してきた

ので、今夜は仕方なく細長いゼリーで許し

てやることにしたけど結果的にいいチョイ

スだったと心の中でほくそ笑む。

 そんな本心を滲ませながら素知らぬ顔で

ニッコリ笑いかけてやると島崎の表情が泣

き顔に変わった。


「で、コレとコレ、どっちがいい?」


 おどろおどろしいパッケージのホラー映画

二つを目の前に差し出して尋ねるが、島崎は

泣いて嫌がる気力もないのか力なく首を横に

振る。

 俺自身は特別ホラーが好きとか嫌いとかで

はないのだが、肝心の島崎がこの様子では楽

しさも半減するというものだ。

 適当にパッケージが怖そうな方を選んでふ

と人の気配に気づいて顔をそちらにやると、

本屋のコーナーの棚の間から見知っている人

物を見つけて思わず声を出してしまった。


「岡本?」

「え…?あっ、よ、吉光君っ?!」


 参考書コーナーから姿を現したのは重そ

うに何冊も分厚い本を抱えた岡本だった。

 思いがけない人物と遭遇したのは岡本に

とっても同じだったようで、何故か抱えて

いた本を隠そうと慌てて失敗したらしい。

 腕の中からずり落ちそうになった本をギ

リギリで支えてあわあわしている。

 別に岡本がこんな時間に本屋にいても見

咎めたりはしないのに。

 そう思ったが、岡本が抱えている本のタ

イトルを見て疑問が口をついて出た。


「センターの過去問題集って…岡本って推

 薦で大学行くんじゃないの?」

「こ、これは、そのっ…」


 慌てているせいで余計に考えが纏まらな

いのか、言い訳を考えているような間があ

った。

 俺が言うのもなんだけど、俺たちの通う

学校は俺や島崎なんかでも通えるような偏

差値の低い学校だ。

 でもそれでも優等生である岡本は常に学

年上位の成績をキープしており、全国規模

の試験結果からしても都内の大学は十分に

狙えると教師たちが話していたという噂だ。

 体育なんかを除けば基本の5教科を中心

に岡本の成績はテストの点数を含めて申し

分ないはずで、推薦枠をとるには有利だろ

うというのは俺にでも分かる。

 それなのにわざわざセンター試験を受け

るつもりだということなら、推薦ですら行

けないような大学学部狙いなのか。

 が、そんな俺の目の前で国公立大学の過

去問題集の本をセンター試験の過去問題集

の陰に隠そうとしていた。


「岡本ってそこの大学狙いなんだ?」


 だがその大学の推薦枠なら岡本が希望す

れば教師たちも嫌な顔はしないだろう。


「えっと、これは、その…高取君の…」


 俯いたままモゴモゴと言い訳する岡本の

口から思いがけない人物の名前が出てきて

さらに驚いた。

 高取が国公立大学に進学希望だなんて寝

耳に水だ。

 高取は島崎のようなバカではないのだが、

制服の着崩し方が不良っぽいだとかそこに

居るだけで威圧するような存在感が教師連

中を刺激するらしく成績はそこまで良くな

い。

 進学とか就職とか、今まで進路の話をし

たことはなかったが受験勉強をしている姿

を見かけたことはない。

 中学時代から付き合いのある九条が言う

には、高取は記憶力や頭の回転は悪くない

からその気になれば成績は上がるはずらし

い。

 いくら頭が良くても受験勉強をせずに国

公立大学へ行けるほど大学受験は甘くない

はずなのだが…。

 いや、そもそもなんで岡本が高取の希望

進路を知ってるんだ?


「あのっ、先生に進路希望調査用紙を集め

 るようにって頼まれて、わざとじゃなく

 て、そのっ…」


 しどろもどろな岡本の言い訳を聞きなが

ら、そういえば岡本が担任教師に用紙回収

を頼まれていたことを思い出す。

 岡本はクラス委員でもなんでもないのだ

が、気が弱く頼まれたら断れない優等生に

担任教師はよく頼みごとをしていた。

 あの時に職員室へ運ぶ間にこっそり盗み

見たのだろう。

 そのくらいは面倒事を引き受けた岡本が

享受していい特権だと思うのだが、岡本本

人はそこまで割り切れないらしい。


「まぁ、それはどうでもいいんだけどさ。

 でも高取の進路希望がそこだったとして、

 なんで岡本が過去問題集買うの?」


 もし高取に直接買ってくるように命令さ

れたなら岡本はこんな態度はとらないだろ

う。

 この様子では、高取本人は岡本に自分の

希望進路を知られていることなど知らない

はずだ。

 高取の性格から考えても、わざわざ岡本

に言いはしないだろう。

 だとしたら…。





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