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短編集・読み切り



 しかしハンマー使いの攻撃魔法では敵キ

ャラを殲滅させることはできず、少女剣士

はHP回復が間に合わないまま地面に伏し

た。

 ここでボスキャラが後衛のキャラクター

にまで黒い槍の雨を降らせる術を唱え始め、

一発ならなんとか耐えられるとHPゲージ

を見ながら確認するものの復活魔法の詠唱

が未だに終わらない。

 地面にへばっている主人公キャラを起こ

したら即座にアイテム回復だなと考えを巡

らせながら一刻も早く復活魔法が発動する

ように念じる。

 黒い槍が降り注いで、もう一撃何かもら

ったらパーティは間違いなく全滅だ。

 物理で殴られたら打って響くタイミング

でそれが確定するだろう。

 ここまでの長いダンジョンをもう一度辿

ってくるだけの気力はもうない。

 だから早く…と思ったところで後列の二

人の上に黒い槍が降る。

 と、同時に画面の上の方から光がさした。

 コンマ数秒というギリギリのところで復

活魔法が間に合ったらしい。


「よっしゃッ」


 まだかまだかと暇を持て余していた島崎

が目を輝かせて起き上がったばかりの主人

公に奥義をかけさせる。

 復活魔法が発動してから即座に回復魔法

を唱えていた少女に雑魚が一発食らわせて

きて詠唱が中断される。

 HP的にもボロボロで次に倒れるのはこ

の少女かと思うほどのところに一撃もらっ

たのでさすがに痛い。

 “詠唱中は守ってよーっ!”と叫んぶ少

女の言葉に内心頷くもののバカ島崎にそこ

まで気が回せていたら苦労などしない。

 アイテムでHP回復しようと思ったのに

まともにHP回復ができるものが残ってい

なかったことも島崎の無計画さが滲みだし

ているというものだ。

 島崎にパーティの命運なんて預けるもの

じゃない。

 (主にバカ島崎のせいで)全滅スレスレの

ところをなんとか切り抜けてそのボスは撃

破できた。

 戦闘の勝利画面で主人公がハンマー使い

に正座させられて“一人で前に出るクセを

なくせ”と説教されていたが、それは画面

の前の島崎にしてほしいくらいだ。


「やっぱり1人でプレイするよりミツと一

 緒にやったほうが楽しいな。

 いざとなったらミツが動いて助けてくれ

 るし」


 そんな画面の前で島崎がニコニコしなが

ら満足げに勝利の余韻に浸っている。

 誰のせいで主人公は怒られていると思っ

てるんだと思ったら、少しだけこの主人公

が可哀相に思えてしまった。

 そんな笑顔で調子のいいことを言ったっ

ていちいち動揺なんてしてやらない。


「突っ込んでくだけのバカのフォローなん

 て好きでやってるんじゃないっての。

 おかげでオレはちっとも攻撃できなかっ

 ただろ」

「それは…ほらー、ミツの使ってたキャラ

 は攻撃も回復もできるからさ。

 それにボスのHP高いんだから、さっさ

 と削っていかないといつまでも終わらな

 いし」


 ジト目で抗議すると島崎はあたふたしな

がら言い訳する。

 今更無駄だし、そもそもそこまでムキに

なってるわけじゃないけども。


「それに、ミツみたいにちゃんとサポート

 してくれる奴がいてくれたらすっごく安

 心できるし。

 一緒に旅するならやっぱミツがいいよ!」


 ドキ…ッ


 いやいやいや。

 調子のいいこと言ってるだけだし。

 たかがゲーム。たかがゲーム…。


「そう思うならせめて“詠唱中くらい守っ

 てよ”

 1人で突っ込んでいって、自分だけなら

 まだしも味方まで危険に晒すような奴は

 オレならゴメンだよ」


 にやけそうになる口元を必死に誤魔化し

ながらつっけんどんに言い返す。

 島崎は一瞬キョトンとした後で間をおい

て何か考えついたようにハッとする。

 そして言葉を探すようにして目線を伏せ

ると“ゴメン”と小さな声で呟いた。

 たかがゲーム…なんだけど、オレの言い

たいことが珍しく理解できたらしい。

 落ち込んでしょんぼりする島崎を見かね

てその肩にぽんと手を置いた。


「これセーブして、レンタルショップ行こ。

 コンビニに寄って夕飯とお菓子かなんか

 買い込んでこようぜ」

「あ、うん」


 窓の外はまだ明るいものの時刻はもう夕

方の6時になろうとしている。

 さすがにゲームだけしているのも疲れた

し、そろそろ気分転換に映画かなにかが観

たい。

 昼は島崎がチャーハンを作ってくれたけ

ど夕食は買ってきても問題ないだろう。

 一方的に食べさせてもらうだけなのは気

が引ける。

 映画を観た後のことは…その時になって

から考えようと思う。





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