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短編集・読み切り



 ガチャ


「あっちーっ。

 あー、クーラー涼し…」


 巡らせている思考を遮る形で部屋のドア

が開く音がする。

 既に制服のネクタイは緩められ、シャツ

のボタンもいくつか外された姿で島崎は部

屋に入ってきた。

 …まぁ島崎がキチンと制服と着ているの

なんて生活指導の教員に注意された直後だ

けだけども。


「おかえり、バカ島崎。

 つーか、ノックぐらいしろ」

「ミツー、やっと補習終わったよーっ」


 部屋に入ってくるなり冷房の風に当たっ

て表情を緩めた島崎は中身がほとんど入っ

ていない鞄をその辺に放り投げてベッドに

寝転がったままの俺にガバッと襲い…抱き

ついてくる。


「うわっ、重いっ。汗くさっ!

 どけ、バカ島崎っ」


 ついでに言うと赤点補習だったのは島崎

のせいだし、こんなことをされたまま我慢

しなきゃならない理由なんてオレにはない。


「んーっ、もうちょっとだけー」


 重いし汗臭いくせに島崎は犬よろしくオ

レの首筋に鼻先を近づけてスンスンと鼻を

鳴らしている。

 躾のなっていない大型犬が主人に飛びつ

いて押し倒したらこうなるんじゃないだろ

うか。

 きっと島崎に尻尾があったら千切れんば

かりにパタパタと左右に揺れていることだ

ろう。

 だからといって目の前の島崎を可愛いと

も思わないし、島崎が満足するまでこの状

況に甘んじるつもりはないけれど。


「…今すぐどかないとタマ蹴り上げるよ?」

「うー…っ。ミツのケチー」


 近づけてきている島崎の顔の傍で低く呟

くと島崎は苦笑いを浮かべてようやく体を

起こした。

 名残惜しそうにこちらを見下ろしてくる

島崎の前でオレも起き上がって一息つく。

 ホントに島崎の前だと一瞬たりとも気を

抜けない。


「ベタベタくっつく前にシャワー浴びてく

 れば?

 オレは昼飯買いにコンビニ行ってくるし」

「んー、でも外暑いよ?

 チャーハンでよければ俺が作るけど?」


 パンにしようかおにぎりにしようかと考

えてる俺の耳に信じられない言葉が降って

きた。


「え…。島崎って料理できんの?

 なにその女子力」

「なんか勘違いしてるみたいだけど、全然

 違うから。

 ウチの親は放任つーか、自分らが家にい

 ない間は勝手に作って勝手に食えってい

 う感じだし。

 だから簡単なものしか作れないって」


 オネェの気でもあるのかと見上げると、

島崎はヒラヒラと顔の前で手を振って否定

する。

 タンスの中から着替えを引っ張り出した

島崎はそのまま風呂に向かったようで、ま

た1人で部屋に残されてしまった。

 島崎が戻ってきたら昼飯を買いにコンビ

ニに行くついでに色々と買い込んでこよう

と思ったのに予定が狂ってしまった。

 さて、どうしようか。


 〜♪


 ベッドの上に放置していたスマホが聞き

慣れた音をたてる。

 誰だろうと内容を確認するとヒデからの

ツイート通知のようだ。


“ヒマー。誰か遊べる奴いない?”


 夏休みでもヒデは相変わらずのようだ。

 こちらは暇ではなくなったから生憎とヒ

デの遊び相手にはなれないが。


“あちーっ。

 クソ、ギャーギャーうるせー客殴りてー。

 暇ならアイツら叩き出してくれよ”

“ヒデ、暇なら手伝いに来いって。

 俺らナンパする暇ねーっての”


 間をおかずにバカ二人からの返信がつく。

 それでいて忙しいとはどの口がほざいて

いるのか。

 バカ二人は夏休みの間に海の家でバイト

することになったようなのだが、その理由

が不純で“バイトして給料もらいながら女

を見定めてナンパできるから”らしい。

 しかし海の家と言えば冷房もない上に多

忙だろうしナンパなんてしている暇もない

だろうことは海の家のバイトを経験してい

ないオレだって容易に想像がつく。





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