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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 レイだけならともかく、秀一先輩まで来

てしまったのなら狸寝入りじゃ通用しない

かと心の中で諦めの溜息をつく。

 秀一先輩は頭がキレる分手厳しいし、怒

らせたら容赦がない。

 それは高校生活の中でしっかり体に刻み

込まれてしまった。


「なん、で…?」


 ゴソゴソと毛布の中から頭だけ出して、

部屋の明るさに目を細めながら視界に二人

の姿をとらえる。

 この部屋のスペアキーは両親に預けた分

と、このマンションの管理人しか持ってい

ないはずだ。

 家主である俺が玄関の鍵を開けたのでは

ないのだから、そのどちらかの鍵が必要だ

ったはずだ。


「うん?

 おばさんがね、“今夜はハロウィンだか

 ら、良かったら様子を見に行ってあげて

 ね”って」


 小首をかしげたレイがポケットの中から

鍵を取り出して俺に見せる。

 俺が実家に預けてきたこの部屋のスペア

キーだ。

 つまり俺を心配した母さんがレイに頼ん

だらしい。

 だが俺はこの二人と面識があるが、幼馴

染であるレイと高校時代に付き合いのあっ

た秀一先輩には面識がなかったはずだ。

 その二人が何故セットでこの部屋を訪ね

てくるのか。


「どうせこんなことになっているだろうと

 思って様子を見に来てみたら、エントラ

 ンスで鉢合わせたんですよ。

 エレベーターを降りた階も、訪ねてくる

 部屋も同じとなれば同時に訪問するしか

 ないでしょう」


 レイの答えで最初の疑問は解けたものの、

それでも不思議な組み合わせである二人を

見つめていたら秀一先輩が答えてくれた。


「お兄ちゃん、この人にお兄ちゃんの秘密

 を喋っちゃったの?」


 滅多に怒ることのないレイがプクッと頬

を膨らませそうな表情で小声で尋ねてくる。

 秘密、言わずもがな吸血体質のことだろ

う。

 けれどそれは不可抗力だったことだし、

何故レイが拗ねているのかわからない。

 当時、満月の夜でも吸血衝動を耐えきれ

る夜もあったが、それでも耐えきれない夜

にはレイの血をもらっていた。

 けれど自分より幼い体に歯を立て血を啜

り、赤い痕を幾度も刻み付ける罪悪感に良

心が悲鳴を上げていたのも事実で。

 そんな時に条件付きでと提示された先輩

の提案は渡りに船だった。

 幼いレイにばかり負担をかける一方的な

関係は解消できるし、先輩の肌に牙を立て

る罪悪感はあったものの交換条件を呑むこ

とによって幾分か和らいでいたのは事実だ。


「高校の時の先輩で、その…色々と世話に

 なったっていうか…」


 世話になった記憶のほとんどは部活以外

のことだったけれども。


「とにかく今夜はボクがいるから安心して

 ね、お兄ちゃん?」


 ニッコリとベッドの端に腰掛けたレイが

笑顔を浮かべる。

 ちょっと待て。

 今夜は用事があるからと朝に伝えて帰し

たはず…いや、待てよ。

 だから母さんから鍵を預かってきたのか?



「いや、あの今夜は…」

「そうですね。

 残念ですが今夜は僕との先約があるんで

 すよ。

 お引き取り願えますか?」


 レイに負けず劣らず…いや、レイとは違

う種類の笑みを浮かべた秀一先輩が俺の言

葉を遮る。

 その非の打ちどころのない笑顔にレイも

負けじと笑みを返す。

 って、先約ってなんの話だ?

 パーティの誘いなら先週断ったはずだ。

 先輩の言うパーティは世間一般的な、

いわゆる大人数で行うものとはおそらく

違うものだからだ。


「でもお兄ちゃんはこんなに具合悪そうだ

 し、今夜誰かと会うのは無理だと思うん

 です。

 お兄ちゃんの看病は家族同然のボクがす

 るので日を改めてもらっていいですか?」


 非の打ちどころのない、ついでに隙もな

い笑みを浮かべた二人の間に火花が飛び散

った…ように見えた。

 いや、まさか。

 レイは滅多なことでは怒らない温和な性

格だし、秀一先輩だってクールとはいえむ

やみやたらと噛みつくような性格ではない。


「どんなに親しくとも、見せられない姿だ

 ってあるでしょう。

 達樹(たつき)君だって困っているじゃな

 いですか」

「ボクは子供の頃からお兄ちゃんを知って

 るし、お兄ちゃんのお母さんからお兄ち

 ゃんのこと頼まれてますから」


 笑顔を浮かべたままどちらも一歩も引か

ない。

 日が落ちたとはいえ、外は仮装行列の集

団で熱気すら立ち上っていそうだというの

にこの部屋の温度だけ3度くらい下がった

んじゃないかという錯覚すら起こす。

 俺としてはどちらにも長居せず速やかに

ご退場願いたい。

 満月のハロウィンなんて未だかつて経験

がない。

 秀一先輩に初めて牙を立ててしまった時

のように我を失って噛みついてしまう危険

だって可能性としては十分にあり得るのだ。

 今年こそは誰の血も啜らず誰も被害者に

したくない。





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