[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 なんとなく聞きそびれた答えはそれ以上

言及できる空気じゃなくて、莉華の後に続

いて浴室に入るといつもの大きな大理石の

浴槽が出迎えてくれた。

 子供の頃はプールのようだとはしゃいだ

思い出のあるそのお風呂は、なみなみとお

湯が張られていてまるで温泉施設のよう

だ。

 シャンプーやトリートメントも市販品で

はないようで、いつもいい香りがする莉華

と同じ匂いになれるのは子供心に嬉しかっ

た。


「今回の設営も参加するの?」

「コピー本が完成したら、ですわね。

 でも今回は量が量ですから…」


 製本が終われば、と莉華は言うけど今ま

でにないページ数のコピー本はそんなに早

く仕上がるだろうか。

 大規模な会場を貸しきって行われる年末

のイベントは、イベントスタッフだけでな

く参加者(参加サークル及び一般参加者)

のボランティアを募って毎回会場の設営・

片付けを行っている。

 簡素なテーブルとパイプ椅子を並べるだ

けの作業だけど、それをだだっ広い会場に

何千、何万と並べる作業は千人を超える人

手がなければできない作業だ。

 それにいつも参加してきた莉華だけど、

今回ばかりは時間的な問題で難しいのかも

しれない。

 個人料理店はクリスマスを含めて年末年

始は稼ぎ時だから私はそっちに駆り出され

て設営のほうには参加できないけれども。

 長い髪を丁寧に洗う莉華の隣で先に洗い

終わってしまった私はスポンジをボディソ

ープで泡立てて腕を洗い始める。

 手間を惜しまない丁寧なケアがあるから

莉華の髪は長いのにいつもサラサラなんだ

なぁと思う。

 でも、その髪が羨ましいと思っても真似

ができるとは思わない。

 頭皮を丁寧に揉み洗いするシャンプーだ

けで何分もかけ、その後にトリートメント

を丁寧に髪に擦り込んでいく間に体が冷え

切ってしまう。

 現にようやくトリートメントを髪に馴染

ませた莉華は髪を頭の上にまとめてタオル

で全体を包み込んでいる。

 ここから5分ほどトリートメントが浸透

するまでおいておかないといけないみたい

だ。


 進学したらこうして一緒にお風呂入るこ

とも、もうないのかな…。


 今までは通う学校も同じで、同じ学年で

と親戚とはいえとても親しい付き合い方を

してきたけれど、春からはお互いに生活環

境が変わる。

 それぞれに別々の学校生活があって、今

まで通りじゃいられないんだろうなってい

う漠然とした感覚が卒業が近づくにつれて

現実味を帯びていく。

 でもお互いに何となく卒業後の話はあま

りしない。

 妙にギクシャクするというか、気まずい

雰囲気になるからなんとなく避けてしま

う。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!