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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 カタカタカタカタ…

 カーテンの閉め切られた部屋に響くキー

ボード音。

 カーテンの隙間からは夕陽の欠片が零れ

てきているが、キーボードに向かうその影

の視線はモニターに釘付けで手元さえ見ず

にキーボードの上に指を躍らせる。

 打ち込むのが早いか、表示するのが早い

か、それを競うようなスピードで英数字の

羅列が画面を埋めていく。

 ひときわ大きな音でENTERボタンを

タンッと押し込むと、モニターの向こうで

組まれたプログラムが目にもとまらぬスピ

ードで画面を滑っていき、やがて“OK”

と最後の表示を残してカーソルが止まっ

た。


「ふぅ…」


 椅子の上で体育座りしていた影は最後の

“OK”を目にしてようやく一息ついたよ

うに足を椅子の上から下ろして投げ出し、

一度億劫そうに伸びをしてから水の入った

ペットボトルを引き寄せた。

 目の下にクマがあることなど日常茶飯事

な彼はそれでもまだモニターに視線を向け

続け、おもむろに水で喉を潤しながら惰性

のように片手で打ち込んでは幾度かENT

ERを繰り返す。

 そしてペットボトルの蓋も締め忘れたま

ま再び作業に戻るのに時間はかからなかっ

た。

 纏う雰囲気は気だるげで緩慢としている

のに、モニターを凝視する眼と動く指先だ

けがそれを裏切っていた。

 それからしばらくの間は呼吸の音さえ掻

き消すようなキーボード音が延々と響き、

それが止んだタイミングでようやく青年は

椅子から立ち上がった。

 長時間座りっぱなしだった反動かフラつ

く足元に気を付けるような足取りで部屋を

出ていく。

 しばらくして戻ってきた青年の手には新

しい天然水のペットボトルと菓子パンが一

つ。

 一日中空腹で酷使された体がもう限界を

訴えたようで、戻ってくるなりもってきた

菓子パンに食いつく。

 気分転換でもしようと思ったのか青年が

モニターの画面を切り替えると、INしっ

ぱなしでいたチャットのログが画面を埋め

ていた。

 ただし並んでいた文字はほぼアルファベ

ットだったが。


【craze:“今まで作ってたデータを改造

 して例のアレを突破するプログラムを組

 んでいるところなんだ”

 mic:“例のアレってアレのことかい?

 まいったな、君は凄いよ。

 craze、君のその発想はどこからくるん

 だい?”】


 少しばかり特殊な集まりであるこの匿名

チャットではINだけしていて寝落ちたり

裏で作業していることなんて当たり前。

 その時アクティブでいるメンバーだけで

チャットを進めるのはローカルルールとし

て定着していた。

 俺でも、僕でも、私でも、あたしでもな

い“I”という一人称で会話できるこのチ

ャットが青年は嫌いではない。

 



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