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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「兄貴ってさ、どうしてそんなに麗や俺を

 信用してくれないんだよ。

 確かに兄貴はキチンとしてるし言いつけ

 は守るし、危ないこともしないけどさ。

 昔からあれはダメ、これはダメって禁止

 してばっかでさ」


 勿論、だからこそ父さんや母さんは安心

して俺達を見られていたのかもしれないけ

ど。

 でも兄貴が危険だと判断したものは全て

禁じられてきたのは事実だ。

 それが俺達の安全を守るという意味であ

ったことも重々承知しているし感謝もして

いる。

 でもいつも傍に居てくれるのは兄として

一緒に遊んでくれる一方で保護者的な立場

で監視されているような気がすることもあ

った。 

 クラスの友達が新しい遊び場を見つけた

り、何か新しい遊びを考えついた時にはや

はり好奇心をもって試してみたくなる。

 確かに大人になった今考えれば危険な場

所や遊び方も含まれてはいたけれど、兄貴

が案じていたほどの危機意識をもって禁止

してしまうことはなかったのではとも思う

のだ。

 そういう時はまるで過保護な親ってこう

いう感じなのかなと内心こっそり思ったも

のだった。


「駆が能天気すぎるからですよ。

 フェロメニアであるという自覚がどうし

 てそこまで乏しいんですか。

 それとも毎晩精根尽き果てるまで自覚さ

 せ続けなければその意識は持続できない

 んですか?」

「っ…」


 そんなんじゃないっと怒鳴るより先にカ

ッと顔が火照る。

 兄貴はただの嫌味で言っただけだろうに、

一瞬それを想像してしまって心臓が跳ねた

のだ。

 兄貴は多忙な身だから我儘を言って困ら

せたくないし、激務の仕事を抱えているか

ら家にいる時くらいは体を休めて欲しいと

思ってる。

 …だからその、そういう事はどうしても

体力や時間を使うから優先順位が後回しに

なりがちで。

 たとえ兄貴の冗談や嫌味であっても、そ

れが実現出来たらどんなに…と頭の片隅で

ちょっとくらい考えてしまう。

 けれどそれは所詮絵に描いた餅で、俺は

それを兄貴に悟られたくなかった。

 兄貴にからかわれるのも、疲れている兄

貴に気を遣われるのも嫌だから。

 顔を伏せそっぽを向いてそれを誤魔化し

ながら視線を泳がせて反論を考える。

 ここで兄貴に話の主導権を握られて本筋

をすり替えられたらたまらない。


「だけど…だけど麗も一緒なんだから、も

 ちょっとくらい信用してくれてもいいた

 だろ。

 俺達だってもう二十歳超えてるんだし」

「…麗が一緒だから、ですよ」


 兄貴はちょっと長めの沈黙の後でため息

と共にそう付け足した。

 しかし兄貴の返答にますます俺の頭の中

のクエスチョンマークが増えていく。

 俺が一人で出歩いたら危険だから一人で

出歩くなという話ではなかったのか。

 麗が送り迎えをしてくれるという条件で

なら兄貴を説得させられるはずだっだ。

 それなのに兄貴は麗がいるからダメだと

言う。


「え、どういう事?

 麗に送り迎えしてもらうのでは不安だっ

 て話じゃないのか?」

「それもありますが、それとはまた別の理

 由です」


 兄貴の答えが返ってくる度に俺の脳内で

ますます疑問が膨れ上がっていく。

 兄貴と麗は俺を挟んで歳こそ離れている

けど、お互いを邪険にしたりいがみ合った

りする関係ではなかったはずだ。

 子供の頃から兄貴は俺に構うのと同じよ

うに麗にも構っていたはずだ。

 関係が複雑になったのは俺が高校に上が

ってからで、それまでは何処にでもいる仲

のいい3人兄弟だった。

 俺の体質が判明してから確かに兄貴と麗

の関係は微妙な感じになってしまったけれ

ど、だからといってそれまで積み上げてき

たものまで全部ゼロになった訳ではない…

はずだ。

 だから他の淫魔と接触してしまうかもし

れいないという問題をクリアしてしまえば

俺が麗と会うことを反対する理由なんてな

い…と思っていたのだけど。


「別の理由って何?」


 考えてみても分からないので、自力で答

えを見つけることは早々に諦めた。

 兄貴には兄貴の考え方があるし、もし兄

貴の考えている問題をクリアできたら今後

麗が付き合ってくれるなら外出してもいい

という許可を貰えるかもしれないという期

待もある。

 麗が大学の講義もバイトも入れていない

日とか、兄貴が休日出勤してしまった休日

とか…俺の仕事は在宅ワークだから締め切

りはあってもその辺りの時間の融通はきく。

 下手に部屋に閉じこもって辞書やモニタ

ーとにらめっこするよりは外に出て気分転

換した方が仕事の効率も上がるかもしれな

い。

 そう考えたらちょっとだけワクワクして

きた。


「…駆は鈍感ですからね」


 しかし兄貴は呆れたような小さな溜息を

つきながらそんな言葉を放り投げてきた。

 なんだかバカにされているように感じて

ちょっとムッとしたけど、文句を言うのは

思い留まった。





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あきゅろす。
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