[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode



 しかし俺があれこれ考えている間に俺に

キャンディをくれた子は子供たちの輪の中

に戻っていき、こちらを振り返って全員で

バイバイと手を振った。

 その腕の動きに合わせて尻尾が揺れてい

るように見えたのは…夕暮れ時のせい、だ

っただろうか。


「気をつけて帰れよー」


 しかし今更それを確かめてみるのもタイ

ミングが遅いような気がして、手を振る3

人にこちらかも手を振り返す。

 それを見た子供たちは公園の茂みの中に

仲良く消えていた。


「…あっちって抜け道あったっけ?」


 俺の隣で子供たちを見送った白浜先輩は

首を傾げていたけれど、ややあってそちら

の方から大きなラジコンが木々の間から飛

び出してきた。

 その大きなラジコンにはいくつもの小さ

なランプがついていて、幼稚園児の持ち物

にしてはちょっと高価な気もした。

 その機体は俺達の傍でぐるっと一周円を

描いたかと思うとそのままあっという間に

上空へと急浮上して見えなくなった。


「……えっ?」


 いくらラジコンだってあんな高いところ

まで飛ぶだろうか?

 いや、そもそも自分たちの見えない範囲

にまでラジコンは飛ばさないのではないか。

 子供たちが去ったほうの茂みから人が出

てくる気配は未だにない。


「あれ?あれっ?」

「どうした、桐生」

「だって、今のラジコンですよね?

 あの子達まだ出てこないし…」

「ラジコンだったのか?

 オレはラジコンに詳しくないけど、それ

 っぽい動きには見えなかったけど。

 ラジコンなら風向きとかでブレるもんじ

 ゃないのか」


 指摘されて気づく。

 そういえば風が吹いていたのに関わらず

機体には全然ブレがなくて、滑る様に飛行

していた。

 それとも最新のラジコンならそんなこと

も可能なんだろうか?

 いや、だとしても操縦者の目の届かない

ところでの飛行なんてそもそも…。


「桐生、お前もさっさと帰らないといけな

 いんじゃないのか。

 もうすぐ日が暮れるぞ」

「あ、はい…」


 白浜先輩は気にならないのかと尋ねてみ

たかったけど、抱っこしている猫の遊び相

手で忙しいらしくそれ以上の意見の突き合

わせは諦めるしかなかった。


「じゃあ先輩、俺はこれで」

「おう。

 またな、桐生」


 猫を抱いて上機嫌な白浜先輩と公園で別

れる。

 俺は沈みかかっている夕日を見ながら自

宅への道を走り出した。




 母さんからのお使いは母さんが夕食の仕

上げを待っていてくれたことで間に合わせ

ることができた。

 不思議な子供たちの話を夕食の時にする

と兄貴は“見間違いでしょう。それとも寝

ぼけていたとか”り辛辣に言い切り、麗は

“不思議な話もあるんだねぇ”としみじみ

聞いていた。

 兄貴としては余計な寄り道をするなとい

う言いつけを守らなかった俺に良い感情は

持たなかったからそういう言い回しをした

のだろうとは理解できるけれども。

 夕食後、食器を片づけてそれぞれの部屋

に引き上げる。

 風呂は順番に入るので、その順番を待つ

間に宿題やら予習復習を済ませるのがいつ

もの生活サイクルだ。

 俺は机に教科書をノートを開いたものの

夕方にもらったキャンディを手の中で転が

しながらまだ彼らの事を考えていた。

 あの不思議なラジコンは何だったのだろ

う。

 あっちの方向に抜け道はないと白浜先輩

は言っていたけれど、それならどうやって

あの子供たちは家に帰ったのだろうか。

 それともたまたま俺達の視界に入らない

所から帰ったんだろうか。

 包み紙からキャンディを取り出して口の

中に放り込む。

 さて舐めて溶かそうと舌を動かそうとし

たが、舌の上にのったキャンディはグミの

様にぷるんと震えて綿菓子の様にあっけな

く舌の上で溶けてしまった。


「んんっ!?」


 口に入れて3秒、もう口内に大玉のキャ

ンディの感触は微塵もない。

 喉に転がって詰まったかとも思ったが呼

吸はしっかりできるし大玉の感触も喉では

感じない。


「新種のお菓子?

 まさか…」


 甘さを感じる前にキャンディの形をして

いたものは溶けて消えてしまった。

 不思議ではあるが、こんなお菓子が出回

っていたら学校で絶対に話題になるだろう。

 おかしいなと何気なく頭に手をやると、

ふわふわとした柔らかいものに振れた。

 椅子から転げ落ちそうなほど驚いて、も

う一度恐る恐る頭に手をやる。

 やはり温かい手触りがそこにあった。

 ちょうど猫を撫でさせてもらった時と似

た感触で、今はそればかりかそのあたりを

撫でられているような感覚まである。

 立ち上がってクローゼットに駆け寄る。

 扉を開いて扉の裏に取り付けられている

鏡を覗き込むと俺の頭には明るい茶色の二

つの耳がピンと立っていた。

 それはあの幼稚園児たちがつけていた猫耳

のカチューシャのようで…いや、本当にカチ

ューシャだったのか確かめてはいないけれど

も。


「えっ、えぇっ!?」


 手触りはともかく、そこに触れている感

覚まであるのはおかしい。

 しかも恐ろしいことに、パンツの中がム

ズムズしている。

 確かめるのは怖かったが、そんなものが

“生えて”しまったのだとしたら対処法を

考えなければならない。

 震える手で制服のベルトを外してズボン

のボタンを外し、パンツの中に手を突っ込

む。

 案の定ふわふわとした感触が掌にあり、

下着の中から取り出してみると耳の色と同

じ色の長い尻尾がパンツの中から出てきた。


「………」


 待ってくれ。

 これは何だ?

 俺はお遊戯会に出る予定もなければ、こ

んなコスプレをする趣味はない。

 いや、そもそもこれって外せるのか?

 それとも生えてきた時と同じように消え

るのかな。

 何にしても明日の朝までに消えてくれな

きゃ、すごく困るんだけど…!


 コンコン


 何でもないノック音に心臓が飛び出るく

らい驚いた。

 手の中でそっと握っていた尻尾が膨らむ。

 …まるで生きてるみたいに。


「なっ、何っ!?」

「バスルーム、空きましたよ」

「あっ、うっ、うん…」


 ドアの向こうから兄貴の声が聞こえて、

それはそれで気が気じゃなかった。

 今、部屋に入ってこられたらまずい。

 いや、それとも相談するべきなのか…?


「………」


 何故だか分からないけど、嫌な予感がす

る。

 こんな姿を見られたらいけないような…

身の安全の為にも。



「駆、どうかしたんですか?」

「いや、大丈夫…」


 俺の様子が変だとでも思ったのか、兄貴

は鋭い質問を投げてくる。

 俺は努めて冷静にそれに答え、動揺を悟

られないようにした。

 兄貴にはこの姿を見られたくない。

 何を言われ、何をされるのか不安で仕方

ないから。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!