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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode



「そうだな…。

 おやつあげるとか、どうかな?

 俺もこれからスーパーに行くつもりだっ

 たし」

「おやつ??」


 まるで思いつかなかったという顔でこち

らを見上げてくる3人組。

 とにかくスーパーヘ行こうと促すと、話

し合いの後に3人のうち一人が残ることに

したらしい。

 猫を見失わないように、ということなの

かもしれないが、これはヒーローごっこじ

ゃなくて探偵団ごっこだったのかなと思い

当たった。

 真剣な顔をして話し合っている横顔も探

偵団ごっこを本気で楽しんでいるんだと思

うと微笑ましくなる。

 本当に小さな子供の頃は兄貴や麗、近所

の友達も誘って遊んだことをふと思い出し

た。

 今はあんなふうになってしまった兄貴だ

けど、当時は遊んでいた中で一番の年長者

でリーダーだった。

 麗は何故か俺と敵対する勢力になるのを

泣いて嫌がって、いつでも俺の後ろからち

ょこちょこついてきたっけ。

 懐かしくて、けれどもう二度と戻れない

過去。

 思い出に浸りかけて、今はと頭の隅に追

いやる。

 この子供たちがどんな設定で、そしてど

んなルールであの猫を巻き込んだのか聞い

ておかなければならない。

 あの猫は首輪をしていたし、毛並みの良

さからしてもおそらくどこかの家で飼われ

ている猫だろう。

 その猫を巻き込んだごっこ遊びで金属製

の棒を持ち出すような遊び方を放置して今

後誰かが怪我をするようなことがあったら

寝覚めが悪い。


「ところで…どうして君達はあの猫を見張

 っているんだ?

 あの猫が何かした?」


 俺の問いかけに後ろをついてきている二

人は何やら小声で話し合っている。

 ごっこ遊びに部外者が乱入してきて、ど

ういう立ち位置の設定にするか話し合って

いるのだろうか。


「あの猫、我々の大事なもの、持ってる」

「大事なもの?」

「あれがないと帰れない。

 とても困る」


 やけに真剣な顔つきで頷くので、返す言

葉に迷った。

 もしかしたらごっこ遊びに何か家から持

ち出した大切なものを使ったのかもしれな

い。

 しかし子供達に興味を示さなかったあの

猫がそれを持ち去った可能性はあまり高く

ないような気がするのだが…。

 どちらにしても関わってしまった以上は

付き合えるところまで付き合わなければい

けないような気がした。

 スーパーに着くと様々な商品が並ぶ店内

をキョロキョロしながら落ち着きない様子

で俺の後ろにくっついてきた。

 まず最初にペットコーナーへと案内した。

 子供たちが猫用のおやつを商品を選んで

いる間に母さんからの頼まれものをとって

こようとしたのだが、不安げな目を向けら

れて二人が選ぶのを待つことにした。


「このサカナとこのトリはどっちがいいと

 思う?」

「ウェットとカリカリはどういう意味?」

「こっちの方が数が多いけど、どのくらい

 あれば足りる?」

「またたびって何だろう。食べ物?」


 質問が矢継ぎ早に飛んできて、俺がおや

つを選んでいる間にここを離れたら不安に

なる理由が知れた。


「えーっと…じゃあこれとこれはどうか

 な?」


 プリンの半分くらいのサイズのカップに

入った物と手のひらにのせてあげる用のお

やつを2つとって差し出す。

 その2つをそれぞれ受け取った二人は目

を輝かせておやつのパッケージを見つめる。


「なるほど!」

「これでいいんだ…!」



 まるで戦隊ごっこで使う玩具でも手に入

れたように目を輝かせるのを見て、やっぱ

り子供なんだなと思う。

 金属製の棒なんて持ち出さなければ、俺

も安心してごっご遊びを見守っていられた

だろうにとも思うが、まぁこの笑顔が見ら

れたのだから全部が全部悪くなかったかな

と思えた。

 その後、買い物カゴへ入れずに大事に猫

用の餌を抱き抱える二人を連れて母さんに

頼まれた買い物を済ませた。

 スーパーの袋を片手に抱えて公園に戻る

道すがら、前を並んで歩く2人の背中を何

とはなしに眺める。

 猫耳はカチューシャだとして、ズボンか

ら生えたような尻尾が歩くたびに先端だけ

揺れる仕組みがよく分からない。

 糸で吊っている風ではないし、中に針金

が入っているのとも動きが違うような気が

する。

 しかし恐らく幼稚園か保護者の手作りだ

ろうから、本人達に聞いても答えられない

かもしれない。

 お遊戯会の衣装にしては本格的だなと思

ったけれど、最近の幼稚園のお遊戯会はこ

んなに完成度が高いのかな…とちょっとだ

け時代の流れを感じたり。

 公園に戻ると見張り役で残された1人が

駆け寄ってきた。


「お、遅いよ〜っ」


 一人きりがよほど不安だったのか、不

安げに目を揺らし膝を震わせている。

 そんな友達に戦利品を掲げながら2人

が駆け寄る。


「バッカだなー。

 ちゃんと戻ってくるって言っただろっ?」

「あとちょっとで帰れるよ。

 だから頑張ろう?」


 不安げだった少年は仲間の1人に頭をく

しゃくしゃに撫でられ、もう1人に励まさ

れてようやく浮かんでいた涙を引っ込めら

れたようだ。


「もういいかな?

 じゃあそろそろあげてみようか」


 あまり帰りが遅くなると母さんたちが心

配する。

 急かすようで申し訳なかったが、声をか

けると早速おやつのパッケージをあけてく

れた。

 手のひらサイズの容器の表面に貼られた

フィルムはなかなか剥がせなかったようで、

そこだけは手を貸したがそれ以外は見守る

ことにした。


「にゃ…にゃあ…?」


 おやつの入っている小さな容器を差し出

しながら緊張した面持ちでじりじりとベン

チで昼寝をしている猫に近づいていく。

 その緊張が伝わったのか目を閉じていた

猫は顔を上げて近づいてくる3人を凝視す

る。

 あ、まずいかも…。

 声を出す前に猫はベンチの上からぴょん

と下りて近くの塀の上に近寄ると大した跳

躍もなく俺の目線ほども高さがある塀の上

へ移動してしまう。


「うっ…」


 さっきまでの自信たっぷりだった表情は

途端に自信のない泣き顔に代わり、俺は慌

てて近づいてフォローする。


「あ、猫もちょっとビックリしっちゃった

 んだよ。

 大丈夫、上手くいくから」


 3人いっぺんに泣きだされたら、さすが

に相手に出来ない。

 幼い頃の麗ならばしばらく抱きしめてい

る間に泣き止んでくれたが、初対面の子供

たちが同じ方法で泣き止んでくれるとは限

らないからだ。


「ちょっと貸してごらん」


 おやつの容器を受け取って塀の上で様子

を見守っていた猫の前にそっと置く。

 家猫だから人には慣れているのか、それ

ともそろそろお腹が空いてきたのか、猫は

容器にクンクンと鼻先を近づけた。


「あっ」

「食べたっ」


 おやつの表面を舐めるだけだったが、好

みの味だったのか猫は舌で器用におやつを

少しずつ口に運ぶ。

 その様子を見た子供たちは歓声を上げて

喜び、その騒ぎを気に留めないのか猫はペ

ロリとおやつを平らげてしまった。





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