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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode



 学校の帰り道。

 誠一郎や樹と別れた後で、公園に通りか

かる。

 いつも通りの景色だとそのまま通り過ぎ

ようとして、思わず足を止めた。

 近所にある幼稚園の通園服を着た子供が

三人、集まって一転を凝視しながら何やら

コソコソしていたのだ。

 ただそれだけなら仲良く遊んでいるのだ

ろうと気にせず通過したのかもしれない。

 が、幼稚園児たちの頭やお尻の部分から

猫耳や猫の尻尾に似た何かが生えていたの

だ。

 それで思わず二度見して足を止めてしま

った。


「あー…お遊戯会の衣装、かな」


 見慣れない服装をしていたせいで思わず

足を止めてしまったが、お遊戯会の衣装だ

とすれば十分にあり得る話だ。

 ただそんな衣装のまま外を走り回って遊

んで汚したら保護者が叱るかもしれない、

とは思ったけれども。

 その園児たちが何を見ているのかとその

視線の先にあるものを見てみると、公園の

塀の上で丸まって日向ぼっこをする猫だっ

た。

 塀の傍でコソコソとしている園児の身長

では手が届かないことが分かっているのか、

猫の方はゆったりと尻尾の先を揺らしなが

ら気持ちよさそうに日向ぼっこを楽しんで

いるようだ。

 何のことはない、平和的な日常。

 穏やかに流れる午後の風がそっと頬を擽

っていった。


 〜♪


「?」


 聞き慣れた着信音にポケットをまさぐり

携帯端末を取り出してチェックすると、母

さんから買い物を頼むメッセージが届いて

いた。


「…スーパーで大丈夫か」


 買い物リストを確認すると、歩いて10

分くらいのところにあるスーパーに行けば

全て揃うことが分かる。

 このまま道を引き返した方が早いと公園

から立ち去ろうとした俺の耳に慌てたよう

な声が届いた。


「わっ、とっと!」

「大丈夫かっ、ベータ!」

「き、気をつけてー…」


 何となく嫌な予感がして振り返ると、3

人いた園児の一人が自分の身長の倍はあろ

うかという金属製のパイプを抱えてよろめ

いていた。

 迷ったけれど、放っておいたら不味いよ

うな空気がひしひしと背中を刺す。

 あんなにふらついて大丈夫かとか、そん

な長い棒を何に使うのかとか。


「はーい、君達。

 そんな長い棒で何をするつもりなんだ?」


 なるべく怯えさせないようにと明るい笑

顔で近づいたつもりだったけど、さっと顔

色を変えた3人はそそくさと円陣を組んで

小声でコソコソと何やら話している。

 確かにこういうことに慣れてないけれど、

不審者だと思われたのかと思うと地味にシ

ョックだった。

 余計なお世話だったかなと居心地の悪さ

を感じながらどうしようかと考えていたら、

3人の中で一番勝気そうな茶色い猫耳のつ

いた男の子がこっちを向いた。


「われわれは、いま。とてもじゅーよーな

 ミッション中であるっ。

 邪魔をすると…えっと、とっても痛い!」


 びしっとこちらを指さしながらたどたど

しい言葉遣いで威嚇してくる。

 特撮かアニメの影響だろうかと内心冷や

汗をかく。

 子供の頃は当時流行っていたヒーローの

真似事をして友達と遊んでいたような気も

するが、初対面のそんな幼稚園児を説得で

きるかと言えばそれはまた別の話だ。


「えーっと…。

 そんな長い棒を振り回したら危ないと思

 うんだけどなー。

 君や友達が怪我をするかもしれないし」


 “危険だから”という注意を出来るだけ

優しい口調で諭す。

 そんな俺の目の前でまた3人で固まって

ヒソヒソと内緒話をするのを見て、話しか

けたことをちょっとだけ後悔し始めた。


「われわれ、あれ必要。

 あれがないと、とても困る」

「あれって…猫?

 誰かの家で飼ってるの?」


 大真面目な顔で昼寝中の猫を指さす少年

に首を傾げる。

 ただのヒーローごっこにしては、懐いて

もいない猫を頭数に入れるなんてちょっと

不思議な気がした。

 ヒーローごっこは友達同士で配役を決め

て遊ぶものだと思っていたから。


「違う。飼ってない。でも必要」


 見ず知らずの猫を巻き込んでヒーローご

っこをしているというには、その目はやけ

に真剣だった。

 しかし自分達の身長の倍はあろうかとい

う物干し竿サイズの鉄製の棒を持ち出すの

は間違いなく怪我のもとになるような気が

した。


「えっと…。

 あの猫と遊びたいならもっといい方法が

 あるんだけど」


 とりあえず危ないからと長い棒に手を伸

ばすと、その棒をすんなり此方に預けてく

れた。

 とは言っても、丸くなってコソコソと秘

密の作戦会議(?)が忙しいようだったけれ

ども。

 もう必要なくなった金属棒をとりあえず

ということで公園の隅に運んだ。

 誰かが不要になってこの公園に捨てたの

かもしれいないが、今この状況で直ぐに処

分することは出来ないからだ。

 そして戻りがてら、ふと3人を見て気づ

いた。

 通園服のズボンに縫い付けてあるはずの

尻尾が揺れている。

 気のせいと言われれば気のせいかもしれ

ないのだが、妙に引っ掛かった。


「もっといい方法とは?」


 俺が戻ってくるとさっきの一人が振り返

って尋ねてくる。

 チラリと猫を見るとこちらの事情など気

にしていない様子でゆったりと眠っており、

その首にはちゃんと首輪をしていることに

気づく。

 何処かの家で飼われていて、遊びに出さ

れている最中なのかもしれない。

 俺は少しだけ考えこんだけど、おやつを

あげれば少しはこっちに興味を示してくれ

るんじゃないかという考えに至った。





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あきゅろす。
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