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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「いや、これはちょっと低すぎやで。

 ちゃんと食うてんの?」


 額だけかと思ったら左右の頬まで体温を

確かめるように無遠慮に触りまくってくる。

 いい気分ではなかったが何も言えずにい

るのをいいようにとったのか、ついにはそ

の掌が首筋からシャツの中に入り込んでき

てしまった。

 さすがにそこまでいけばやりすぎだと体

をよじって陽都の手を毛布の中から追い出

した。


「もう、しつこいっ。

 具合悪いって言ってるだろ」

「遊びに誘っても体調悪いこと多いやん。

 ちゃんと体動かして体力つけなあかん言

 うてるやろ?」

「それは今は関係ないだろ…」


 日常的に体を動かすことが多いのか陽都

は羨ましいくらい綺麗に筋肉がついている。

 抱えている体質のせいでなかなか健康的

な生活を継続的できないこともあって、陽

都の体格には憧れを感じたりもするけれど。

 でも体を鍛えてこの吸血衝動がどうにか

なるわけではないし、今その問答をしたと

ころで具合が改善するわけではない。

 今夜はとにかく一人でこの部屋に閉じこ

もって無事に朝を迎えたい。それだけだ。


「去年のハロウィンかてフラフラしとった

 し、ほんま放っておけへんなぁ、達樹は」


 “むしろ今夜は放っておいてくれないか”

 今にも口から出てしまいそうな言葉を無

理やり呑み込む。

 血どころか食べ物さえまともに胃に残っ

ていないプチ飢餓状態で満月のハロウィン

を乗り切ろうとしていたところだ。

 いつ我を忘れて誰かの首に噛みついてし

まわないか不安で仕方ないのだ。

 頼むから手の届くところにいないでほし

い。

 目につくところに長居されたら、飢えた

自分が何をしてしまうかわからない。

 しかも3人全て、かつて噛みついてしま

った被害者であり、体がその血の味を覚え

てしまっているのだ。

 体が、本能が、血を求めて暴走する前に

俺の目の前からいなくなってほしい。


「大丈夫だから、帰って」


 返せた言葉はそれだけで、寝返りをうっ

て壁の方へ体を向けると毛布を引き上げて

そのまま丸くなった。

 耳の奥で響く鼓動の音が少しずつ少しず

つ大きくなっている。

 ハロウィンの赤い月に体中を流れる血が

反応して俺の自我を食い尽くそうとしてい

る。

 燻る吸血衝動が少しずつ体の内側から沸

騰していって肌を突き破ってきそうだ。

 冷たいと思われてもいいから、3人には

なるべく早くこの部屋を出てほしい。

 俺が正気を保っていられる間に。


「お兄ちゃん、苦しいの?

 何か温かい飲み物でもいれてこようか?

 それとも湯たんぽか何か用意する?」

「レイも帰って」


 俺を気遣ってくれるレイにそんなことを

言うのは気が引けたけど、今夜だけはどう

してもダメだ。

 吸血という行為は人間からしてみたら流

血行為に近い。

 献血でも貧血になる人だっている。

 傷口から流れる血を止めることが出来ず、

一定以上の血が流れ出てしまえば人間は死

に至る。

 飢えたこの体がどれだけの血で満足する

のか、考えたくもない。

 自我を失って欲望のまま暴走すれば、最

悪の未来だって起こり得るのだ。


「お兄ちゃん、なんで…?

 ボクはずっと傍にいるよ。

 こんなお兄ちゃんをおいて、絶対帰らな

 いからね」


 秀一先輩と陽都はともかく、家族ぐるみ

で付き合いのあったレイは今夜がどれだけ

特別な夜か知っている。

 満月とハロウィンが重なる、特別な夜。

 吸血鬼の血を引きながらその業を厭う者

にとって、どれだけの苦行を強いる夜か。

 レイはだから傍にいると言うのだろう。

 自分の血を啜ればいいと、いつものよう

に自ら腕を開くつもりなのだ。

 けれどこの夜を超えられなかったら、き

っとこの先ずっとこの血の運命から逃れら

れなくなる。

 ズルズルと誰かを犠牲にしながら生きて

いかなければいけなくなる。

 己の弱さを許してしまったら、このまま

ずっと己の欲望に打ち勝つことができなく

なってしまう。

 それは、絶対に嫌だ。

 そんな生き方は絶対に嫌だ。





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