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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「…なんや、開いとるやないか。

 達樹ー、遊びに来たでっ」


 大きすぎる独り言の後で、今思い出した

というように申し訳程度のノックをおざな

りにしつつ誰の返事も待たずにズカズカと

長身が部屋に侵入してくる。

 笑顔を浮かべている二人の視線がすかさ

ず新しい来客を出迎えることになった。


「なんや、友達もおったんか。

 外見てみ?

 仮装した連中がぎょーさん歩いとるで。

 俺らも参加しようや。な?」


 両手に紙袋を抱えたままニカッと笑う陽

都には、この目に見えぬ火花が見えないの

だろうか。

 そう思うほど陽気な顔で紙袋を漁り出す。


「定番の魔女っ娘、狼男、フランケンシュ

 タイン、ミイラ男、ゴースト…バンパイ

 アの衣装も用意してきたで?」


 バンパイア、の言葉に笑みを浮かべてい

た二人の笑顔が固まる。

 そして何かをほぼ同時に察したように溜

息をついたり、何かの思惑を目の奥に浮か

べたりしている。

 …怖い。

 とてもじゃないけど、こんな陽気に部屋

にやってきた陽都が去年のハロウィンの被

害者だなんて口が裂けても言えない。

 去年はハロウィン前に満月がやってきて、

満月の夜もハロウィンの夜もプチ絶食で乗

り切ろうとしていた。

 けれどぼんやりとした過ごしていた31

日、10月いっぱいまでが期限のレポート

をまだ提出してなかったことに気づいてフ

ラつく足取りで大学まで出向いた。

 そのレポートを出さないと留年決定と明

言されていたものだったから、どうしても

翌日に引き延ばすことができなかったのだ。

 なんとかレポートを提出した帰り道、す

っかり日が暮れて帰宅ラッシュの波が出来

ている道をフラフラと歩いていて…ぶつか

ったのか、それとも俺がへばったのか、そ

こまでは覚えていない。

 けれど陽都は嫌な顔もせずに手を差し出

してくれて…顔色が悪すぎるからとホテル

まで連れて行ってくれた。

 そして意識が戻ったのは、陽都の逞しい

首筋に噛みついてジューシーで活力の溢れ

てくる生き血を思う存分啜り終わった後だ

った。

 “まさか俺の方が襲われるとか、思って

もみーひんかったわ”

 陽都はそう明るく笑ってくれて、それ以

上俺の事情に自分から突っ込んでくること

はなかった。

 その笑みだけで流してくれようとした陽

都は明るい上に寛容な人間だと思う。

 結局は俺の方が申し訳なくて、自分から

全部喋ってしまったわけだけども…。

 “なんや、そういうプレイなのかと思っ

たわ”

 この陽都の言葉だけが未だに理解できな

いのだが、その一件で知り合って以来よく

遊びに誘われたりと普通の人と変わらず友

達として扱ってくれる陽都の存在はとても

ありがたかった。

 …まぁ、誘いを断ったというのに当日ケ

ロっとした顔で押しかけてくる強引さはど

うにかならないかとは思うけど。


「えっと…今日は体調悪いから、帰ってほ

 しいんだけど…」


 上機嫌で紙袋の中身を漁り、あれもこれ

もとコスプレ用の衣装を取り出している陽

都にボソッと呟く。

 ただでさえ乾いている喉からは声を絞り

出すのが精いっぱいで、伸びてきてしまっ

ている歯を隠す為に毛布越しに喋るしかな

くただでさえかすれた声が届くかは不安だ

ったが。

 そもそも、他はともかくなんで俺が魔女

っ娘の仮装なんてすると思うのか。

 黙って見ていれば、紙袋の中からセーラ

ー服と思しき長い襟や聴診器っぽいものま

で覗いている。


「そうだよね。

 ベッドから出られないくらい体調悪いん

 だよね、お兄ちゃん。

 そういうことなんで、今日のところは二

 人とも帰ってもらっていいですか?

 看病はボクがするんで安心してください」


 心配そうな顔で俺を見つめたレイは、く

るりと後ろを振り返って丁寧な、それでい

てそれ以上の反論は不要だという口調で言

い切った。

 それに対して秀一先輩が何かを口にする

前に、レイの真意に気づいているのかどう

かわからない陽都がベッドのすぐ傍まで距

離をつめて迷わずこちらに腕を伸ばしてき

た。

 まさか毛布を剥ぎ取られるのではと身体

を硬くしたが、その掌は毛布の上をあっさ

り通りすぎて俺の前髪の下に潜り込んで額

にピッタリとくっついた。


「なんや、熱でもあるん?

 …って、冷たっ!

 え、これ体温低すぎなんちゃう!?」

「いや…俺もともと体温低めだから…」


 オーバーなリアクションをする陽都にボ

ソボソと言い訳じみた声で返す。

 平均的な体温より低めなのは父さんから

の遺伝だから嘘ではない。

 何も食べていないから発熱するエネルギ

ーを節約しているんだろうなんていう考え

方も出来るけれども。





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