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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 ドクン、ドクン…


 狭いワンルームのベッドの中で頭から毛

布を被って長いこと自分の心音だけを聞い

ている。

 粘膜同士がくっつくんじゃないかと思う

ほど渇きを訴える喉は、水を何杯流し込ん

だとしてもその渇きを忘れることはない。

 ここ数日の絶食で力の入らない体とは対

照的に凶器かと思うほど鋭い爪の伸びる指

で毛布を強く握り締める。

 体内に残るわずかな体力を少しでも温存

するために眠ろうとする一方で、禁断症状

が出るほど体が血を欲する。

 絶食はハロウィンの夜にフラフラと部屋

の外に出ていかないよう、その体力を残さ

ない為の自分なりの対策だった。

 それでも酸欠に陥った時のように頭の中

はグラグラするし、真冬に凍えるような手

足の小刻みな震えは止まらない。

 少しでも休もうとする体はうとうとと浅

い眠りに落ちるが、それも程無くして喉の

渇きにすり替わる。

 毛布の中から顔を出して携帯機器を指先

でタップして時刻を表示させる。

 カーテンの隙間から零れてきていた夕陽

が、そろそろネオンの光に代わる時刻。

 …ハロウィンの夜はまだ始まったばかり

だという現実が何よりも重い岩として圧し

掛かってくる。

 無駄に水分だけとった体から涙が出そう

になってぐっと堪えた。

 唇を噛み締めると鋭く伸びた2本の歯が

感嘆に柔らかい唇の皮膚を突き破ってしま

う。

 慌てて歯を抜いて舌で舐めると無機質な

血の味が口の中に広がる。

 自分の血じゃダメだ。

 むしろ逆効果とでも言う様に喉の渇き

が悪化する。

 人間の血が欲しい、心行くまで誰かの血

を啜りたいと本能が声にならない声で叫ぶ。


 今年は満月とハロウィンが重なっている

特異な年だ。

 今年を乗り切れれば、これから先のハロ

ウィンはずっと耐えやすくなるだろう。

 満月のハロウィンだって耐えられたのだ

から耐えられるはずだ、と。

 今夜、今夜だけ耐えればいい。



 ピンポーン


 締め切った薄暗い部屋にチャイムの音が

鳴り響く。

 だが毛布を被ったまま1ミリも動かない。

 インターフォンのモニターすら見ない。

 こんな状態では居留守をする他なく、だ

とすれば今夜誰が来たのか俺が知っている

のは不自然だ。

 いや、違う。

 本当はその姿を見てしまうと罪悪感に耐

えられなくなるからだ。

 わざわざ足を運んできてくれた誰かを、

いないフリで騙して帰すなんて良心が咎め

る。

 だからモニターは見ない。

 いや、見ようとしたところで絶食中でフ

ラつく足ではまともに歩けもしないだろう

が。

 逆に言えばそれのための絶食だ。

 出来るなら自分の体ごとベットに縛り付

けておきたいが、トイレに行けなくなるの

はさすがに困るのでそこまでは出来ずにい

る。


 ピンポーン


 催促するようにもう一度だけチャイムの

音が鳴る。

 それでも無言を貫いていたら、それ以上

のチャイムはなる気配がない。

 ほっとするのと同時に居留守を使った罪

悪感がじわりと心に広がる。

 しかし、これで今夜は独りで過ごせるは

ずだ。

 秀一(しゅういち)先輩から誘われたハロ

ウィンパーティも、仮装行列に参加しよう

と言ってきた陽都(はると)も、今朝この部

屋に様子を見に来たレイも、全員に用事が

あるからと断った。

 が、そんな俺の耳にガチャリとありえな

い音が届いた。

 この部屋のスペアキーを持っているのは

両親だけだ。

 だけど俺と同じように吸血鬼の血を継い

でいる父さんは満月のハロウィンに苦しん

でいるだろうし、その父さんの苦しみを少

しでも和らげる為に母さんは父さんにつき

っきりなはずだ。

 今夜この部屋に鍵を持った者の来客なん

てないはず、だった。 





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