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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「(サプリメントで…。

 マルク様の経営されている御社には長年

 お世話になっています)」

「(父上の?

 なるほど。ますます面白いな)」


 顎に手をあてたままの彼は楽しげな目で

笑い、その目に耐えきれず顔を伏せようと

したこちらの顎を掴んで顔を上向かせてく

る。


「(お前、一生欠陥品のまま負け犬として

 生きて死ぬか?)」


 彼が何を言っているのかわからなかった。

 人の性を受け付けるか受け付けないのか、

選んだのは自分ではない。

 欠陥品であることがすなわち負け犬だと

言うのならば、それはもう生まれ落ちた瞬

間から決まっていたのだ。

 しかし彼の言わんとしていることを理解

しようと思考がフル回転する。

 それは目の前まで歩み寄り顎を掴んで至

近距離から見下ろす彼の目に、未だに蔑み

の影がさしていなかったからかもしれない。

 自分の体質を知っても目を濁らせなかっ

た彼に卑しい者として見下されるのならば、

それは生まれ持った体質のせいではなく自

らの性格のせいだと直感で察したからかも

しれない。


「(負け犬というのが現状に甘んじたまま

 惰性で生きることならば、そのようには

 なりません。

 成人したら、自分は家を出ると決めてい

 ます)」


 覗き込んでくる目に今だけは負けまいと、

強い視線で見つめ返す。

 ここで怯むことがあれば、これから自分

の決めた事すら自信がもてなくなってしま

いそうで必死だった。


「(今のままならば、自分の存在はクラウ

 ディウス家にとってもルートレッジ家に

 とっても生き恥なのかもしれません。

 けれど外の世界でなら、俺は自分の居場

 所を見つけられる。

 そう考えます)」


 家を出たとしても淫魔であることは変え

られない。

 人と同じ姿をしながら人とは決して相容

れない。

 そして生き続けるのならば、生きるのに

必要な毎食のサプリメント代もバカには出

来ない。

 それでも、いつか家を出ると決めた。

 ルートレッジ家の汚点として生きて死ん

でいくなんてあまりにも絶望的で惨めだか

ら。

 いつの間にか睨むように目に力を込めて

しまっていた自分に、彼はふっと笑いかけ

た。

 その目には侮蔑の影も詰るような暗がり

もない。

 後ろ暗いところのない純粋さと根拠のあ

る自信から生まれる力強さの同居する、自

分が未だかつて向けられたことのない種類

の目だった。


「(ならばその時の為に、存分に爪や牙を磨

 いておけ。

 世界を知らない子供が考えるより、よほ

 ど世界は冷たく厳しい。

 いつか俺が必要とした時に俺が認めるだ

 けお前が賢く優秀になっていたら、俺が

 外の世界を見せてやる)」


 一切の疑問を吹き飛ばすような力強い笑

みを向けられて、思考が停止する。

 自分が何を言われたのか、それを理解す

るのに頭が追いつかない。

 今まで詰られ蔑まれたことはあっても、

誰かに期待されたこともなければ共に行こ

うと誘われたこともなかった。

 それなのに、この青年はなんと言ったの

か。

 望めばいくらでも優秀な淫魔を従者とし

て傍に置くことなど出来る身の上だろう。

 それでも、自分のような欠陥品の淫魔に

期待することがあるというのだろうか。


「(俺は欲しい物は1つ残らず手に入れる。

 お前の体質は、きっといつか役に立つ)」


 上向かせていた顎から指を離しながら、

彼はどこか確信をもったように笑う。

 ざわりと一際強い夜風が吹いて、彼の羽

織っているコートの毛が波打った。


「(あ、の…?)」

「(クラウディウス家現当主の第13子、

 クロード・J・クラウディウス。

 この名を覚えておけ。

 お前が俺にとって使える淫魔になってい

 たら、いつかお前一人では辿り着けない

 場所に連れて行ってやる)」


 まだ理解しきれず問いを投げかけようと

するが、そんなものは不要とばかりに青年

…クロード様は自分の名を言い残してパー

ティ会場に戻っていってしまった。





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