[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 クラウディウス家の者は基本的に合理主

義だ。

 無駄なことは一切しない。

 クロード様が本来知らないはずの人間が

パーティに招待されているという事実、そ

して駒として使えると判断されれば“懐柔”

していざという時の切り札にするだろうと

いうこと。

 いかに難攻不落の城といえど外堀から少

しずつ埋められていき、気づいた時には何

処にも逃げ場が無くなってしまえば敵の手

に堕ちるしかない。

 クロード様のそういう計算にあの直感だ

けで生きている愚鈍な駆はきっと一生気づ

かない。

 パーティ開始前に一緒に挨拶回りをしよ

うと肩を抱いたクロード様の腕から言い訳

をして逃げた駆だが、それで上手く躱せた

つもりでいるのなら本当に甘すぎると思う。

 駆の言動はクロード様が傍にいなくとも

会場を動き回っているスタッフ、客の中に

紛れ込ませた者たちが影から監視して逐一

報告している。

 勿論駆の考えはどこまでも甘いと思うだ

けで丁寧に教えてやったりはしないが。


「Oh Happy Day〜♪」


 ソロで歌っていた聖歌隊員の歌声に高め

のテノールが混ざった。

 そちらに目を向けると、挨拶回りをする

桐生駆に始終くっついて歩いていた桐生家

の末弟の歌声のようだった。

 未だに変声期を迎えていない高いテノー

ルがピンとのびやかに会場の空気を震わせ

る。

 照れた表情ですぐ傍らにいる駆を見上げ

て笑っているのを見るに、談笑中にそうい

う流れになったものだと推測された。

 聖歌隊のソロ担当だった者は歌いながら

後列を振り返って隊員と目配せして頷き合

った後、広げた両腕を高く掲げながら歌声

を誘い自分はコーラスの方へと混ざった。


「oh happy day♪

   oh happy day♪

 when Jesus washed〜

 when Jesus washed〜

 when Jesus washed〜

 he washed my sins away

 oh happy day♪」


 最初こそ戸惑ってすぐ上の兄を見上げた

末弟だったが、微笑んで頷いて返すその手

を握って緊張して少しだけ震える声を響か

せた。

 その声を後押しするように周囲からは手

拍子がちらほら聞こえ始め、それに勇気づ

けられたように歌声はどんどんと芯をもっ

たしっかりしたものとなっていく。

 手拍子の合間に和やかな笑い声が漏れ、

もうすぐ遅い変声期を迎えるであろう高い

声がコーラスと手拍子とに背中を押されて

どんどん大きくなっていく。

 それを聞きつけた離れたところにいた人

間たちもそれに加わり、いくつもの声が増

えてやがて会場中の大合唱に発展した。

 同じコーラスを何度も繰り返して会場中

を巻き込んでの大合唱になってから、最後

のサビに入って盛り上がりも最高潮の内に

讃美歌は終わった。

 会場のどこからともなく拍手が上がり、

やがてそれは喝采となって歓声を沸き起こ

した。

 その原因となった末弟はふわふわの金髪

を揺らしながら上気した顔で兄・駆に笑い

かけている。

 会場の興奮冷めやらぬ空気を少し重く感

じ、クロード様に耳打ちして断ってから中

庭へと続くガラス扉から外へと足を踏み出

した。

 大きく深呼吸すると室内の温かい空気が

白くなって夜に溶けていき、体を芯から冷

やす夜の空気が体に入り込む。

 雪が当たり前に積もる本国よりは暖かい

が、やはり冬の夜なので冷える。

 それでもそのくらいのほうが今は心地よ

かった。

 振り返ると大きなガラスの窓の向こうで

は今もまだパーティが続いている。

 それを見て、本国のクラウディウス本邸

でも今頃クリスマスの準備をしているだろ

うという考えが頭を過った。

 今、目の前で行われているパーティとは

趣旨も規模も内容も違うが、クラウディウ

ス本邸でも毎年クリスマスパーティが開か

れている。

 もともとは一族内の顔合わせが目的で始

められたものだろうが、今ではクラウディ

ウス家の者に資産や権力、コネを認められ

た人間であればパーティに参加することが

できる。

 招待状が送られてこなければ当然参加は

認められないわけだが、社交パーティとし

ての意味合いが強い現在では招待状を受け

取っていないのにパーティに参加したいと

直接本邸に赴いてくる人間までいるという

話だ。

 パーティに参加できなくとも死ぬわけで

はないだろうに、最上層の立場の者は淫魔

でも人でも社会的な顔というものが大事ら

しい。

 パーティの規模は年々大きくなっていき、

それは対外的にクラウディウス家の力を示

す物差しとしても見られているのだという

話だ。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!