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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 《Oh Happy Day〜♪

    Oh Happy Day〜♪》


 有名ホテルのホールを一晩貸し切った会

場で静かに歌っていた聖歌隊の一人が長い

間の後で高らかな声で歌い始めるとそれを

後からコーラスが追いかける。

 静かなバラードから明るい讃美歌に移り、

頭上高くにあるシャンデリアが人知れず光

量を上げた。

 先程よりやや明るくなった室内で豪華に

装飾された大きなクリスマスツリーは輝き

を増し、集まった人々のざわめきが少しだ

け大きくなる。

 立食式のパーティで会場の一角には出来

立ての料理が何度も厨房から運ばれてきて

いるし、ジュースやシャンパンのグラスを

盆にのせたボーイが会場を行き来していた。

 主催者であるクロード様の次に会場をあ

ちこち回って挨拶周りをしているのが桐生

駆、このパーティの元凶になったフェロメ

ニア…人間だ。

 事の発端は今年の秋口、一本の電話から

だった。 

 一年に何度も本国と日本を行き来してい

るクロード様がご多忙の中、クリスマスに

会えないかという旨の話を駆にされた時の

こと。


 “二人きりでなんて無理。

 クリスマスは毎年家族で祝ってるし、兄

 貴や麗が絶対に反対するから”


 世界の中でも五指には入るであろうクラ

ウディウス家の直系であるクロード様に、

桐生駆は無礼にもそう言って断ったのだと

いう。

 底抜けの能天気で頭のネジが抜けきって

いるとしか思えない脳味噌の持ち主に、ど

ういうわけかクロード様は人一倍甘い。

 仕事であれば完璧な合理主義を貫き非情

な決断さえも厭わない方であるだけに、フ

ェロメニアといえどただの人間一人にここ

まで時間と労力を割かれるのを傍から見て

いると歯がゆくて仕方ない。

 生来の強いチャーム能力や睡眠剤で眠ら

せて本国に連れ帰りクラウディウス本邸に

運んでしまえば口煩い兄弟のみならずセシ

リアでさえも手出しは出来ないだろう。

 その気になりさえすれば1日で片付くこ

となのに、クロード様はどうも本人の意志

で海を渡らせることに拘っており出会って

からすでに数年が過ぎた。

 もちろんお忙しい方だからその間にずっ

と桐生駆にかかりきりだったわけではない

し、仕事の都合で本国と日本を何度も往復

されたりもしている。

 けれどならばこそ無駄な時間を浪費せず

にさっさと人間1人くらい攫ってしまえば

…とは思うのだが、一介の従者が主人に意

見できるわけもない。

 長い電話を切った後、口元を緩く上げた

クロード様の命令にただ従うのみだった。


『駆の父方の親族、過去と現在の交友関係

 の一切を改めて洗い直してパーティの招

 待状を送れ。

 会場、聖歌隊、オーケストラ…それから

 クリスマスツリーのレンタルもな?』


 クロード様の指示通りに父方の親族であ

れば2代前まで、交友関係は高校時代のも

のと現在通っている大学の知り合いやバイ

ト先の同僚まで含めたので招待客は軽く数

十人いる。

 もちろん欠席した者もいるし、クロード

様が立食パーティにすることで飛び入り参

加まで寛容に認められたこともあって実際

の参加人数は正確には把握しきっていない。

 パーティの開始前から知り合いへの挨拶

回りで会場の中を動き回っている桐生駆は、

このパーティそのものがクリスマスプレゼ

ントだと笑ったクロード様に心底驚いた顔

をしていた。

 根っからの貧乏性が染みついている駆に

クロード様は高価なプレゼントをしたこと

もあるのだが、とても受け取れないからと

返された過去がある。

 けれどこういう形でプレゼントされてし

まえば受け取り拒否は出来ないことをクロ

ード様はよくご存知だったし、最初こそ驚

きあまりに豪華なパーティで気後れしてい

た駆だったが忙しく挨拶回りをしている間

にすっかり忘れて楽しんでいるようだった。

 きっとヘラヘラした顔で笑っている駆は

それ以外の意図があるなど考えもしないの

だろう。





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あきゅろす。
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