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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「あ…あはははは。…ごめん」

「クロード様のご命令がなければお前など

 体中の水分という水分を全部抜いてやる

 ものを」


 たとえ食事の為とはいえ人の体液を体質

的に受け付けないカイルにそんなこと出来

るわけがないだろうという考えが一瞬頭を

掠めた。

 しかし俺を睨み続けるカイルの視線は、

たとえチューブやらポンプやらという物理

的な方法を使ってでも実行しそうな気配す

ら感じたから口は開かなかった。

 どうやらカイルに一番憎まれているのは

八つ当たりするクロードでも、未だに冷え

冷えとした態度をとっている兄貴や麗でも

ないらしい。

 カイルをこのグループに引っ張り込んだ

俺のようだ。


「ホント、悪かったって思ってるから。

 カイルだって好きでこんなことしてるん

 じゃないだろうし、こんなことしてなき

 ゃ俺とキスなんて」


 “リクエストもされなかっただろうし”

と言いかけて慌てて掌で口を塞ぐ。

 うっかり余計なことまで言い過ぎたと心

の中で冷や汗をかいたけれど、チラリと横

目に盗み見たカイルは俺を睨んだまま怪訝

そうに片眉をつり上げる。

 どうやら聞かれたくなかった単語までバ

ッチリ聞かれてしまったようだ。


「キスが、なんだって?」

「いやいやいやっ。なんでもないからっ。

 えっと…ほ、ほら、キスの塩焼き…って

 美味しいから俺と半分こなんてしたくな

 いよな〜…なんて」


 言い繕いながら自分でも苦しいと思う。

 けれどここは強引にでもそっちに話をも

っていかなければいけないような…気がす

る。

 俺の視界に入らないところで冷たいカメ

ラのレンズが光ってるのかと思うと…余計

に。


「塩焼き…ということはキスというのは獣

 の名前か?

 まったくお前の国には紛らわしい名の獣

 がいるのだな」


 プイと顔を背けるカイルを見ながら、俺

はキスの命名者に心から感謝した。

 とりあえず俺の失言はなかったことにで

きたようだ。

 俺とカイルのキスなんてどこの物好きが

リクエストしたのか知らないけど、俺から

するのもカイルからしてくるのも有り得な

いだろうと思う。

 カイルに限ってないとは思うんだけど、

このメンバーの中で唯一俺が安心して接し

ていられるカイルまで変な風に刺激しない

でほしい。

 さすがにカイルにまで変な気を起こされ

たら今のメンバーで活動を続けていく自信

は、ない。

 だいぶ溶けて半分ほど水分になったかき

氷のカップを傾けて喉を潤す。

 サラサラと崩れていく残りの氷を舌の上

に送っていくとやがてキーンとした痛みが

再び頭を襲ってくる。

 やはり1人で食べきるのには量が多かっ

たようだ。

 目の前の砂浜ではビーチバレーのコート

がほとんど完成しつつあり、そろそろ休憩

時間が終わりだろうというのが窺えた。


「ごちそーさま」


 誰に言うでもなく呟いてスタッフが用意

してくれたゴミ袋に容器とストローを捨て

る。

 スタッフさん達がカメラを弄ったりして

いる様子から、休憩時間がそろそろ終わろ

うとしていることを察する。


「駆、疲れとれたか?

 そろそろコート来てくれってスタッフが

 呼んでるで」

「あ、うん」


 わざわざ呼びに来てくれたらしいクロー

ドはそう言って手を差し出してくれるけど、

俺は一瞬躊躇してからビニールシートに手

をついて立ち上がる。

 クロードがそれに関してなんかブツブツ

言っていたけど、何か嫌な予感がしたのだ

から仕方ない。

 クロードの場合、基本的に誰が何処から

レンズを向けていようとお構いなしなのだ。

 兄貴はそういうのが元から嫌いだし、麗

に関してはちょっといきすぎたスキンシッ

プで片付けられるけど、クロードの仕掛け

てくる悪戯はそれでは済まないから。

 本当にギリギリを狙って、しかもわざと

見せつけているんじゃないだろうかと思う

ようなことが度々ある。

 それに兄貴や麗が焚きつけられたら絶対

に良くないことが起きる。うん。





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あきゅろす。
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