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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 クロード、兄貴、麗ならばリクエストな

んてなくとも自主的に俺に絡んでくるから

リクエスト表なんてあってもなくても…と

は思っていた。

 けれどカイルが相手に選ばれるなんて…

どこの物好きがそんなのリクエストしたん

だろうか。

 いや、リクエストそのものもだけど、内

容が気になる。


「ちなみにどんなリクエストなんですか?」


 恐る恐る…しかし好奇心が全くなかった

わけでもなく尋ねてみると、大倉先輩はリ

クエスト表を持ったまま片岡先輩と意味あ

りげな視線を交わす。

 怖くなるんでそういう前振りは控えてほ

しいなぁとドキドキしながら頭の片隅で考

える。


「キス」


 その一言に、俺は好奇心に負けたことを

後悔した。

 ファンからのリクエスト表にろくなリク

エストがあった例があったかと頭を抱え込

みたくなる。

 バカバカバカ俺のバカ。


「…訊かなかったことにします」

「ちょっと、駆君っ!?」


 サッと大倉先輩から視線をそらして色々

と考えを巡らせた結果、どう頑張っても無

理だという結論に達して空のグラスを持っ

たままその場を離れた。

 大倉先輩は俺達の会話が途切れるのを待

っていたスタッフに話しかけられて俺を追

ってくることはなく、海の家の店内の日陰

に入ってようやく俺は肩の力を抜いた。

 そのカウンターには先客がいたようで、

長身の影がこちらを振り返る。


「兄貴…。

 あの、これどうも」

「おう、わざわざ返しに来てくれたのか。

 ありがとよ。

 で、そっちのあんちゃん。

 かき氷のレモン、お待ち」


 カウンターに空のグラスを返すとハチマ

キを頭に巻いたおっちゃんが俺にニカッと

笑いかけた。

 そして山盛りの氷に黄色いシロップをか

けたのを兄貴に手渡し、兄貴はその代金で

ある小銭をカウンターに置いた。


「どうも。

 …なんですか、ジロジロと」


 無表情のままかき氷を受け取った兄貴は

それをじっと見ている俺の視線に気づいた

ようだ。


「いやぁ…一口でいいからくれないかなっ

 て…」


 ただでさえ暑い日中の撮影だし、さっき

もらったマンゴージュースは甘すぎて余計

に体は水分を欲している。

 けれどもう一つかき氷を買ったところで

全部なんてとても食べきれないし、絶対に

頭がキーンと痛くなるだろう。

 半分なんて贅沢は言わないから、少しく

らい分けてくれないかなとじっと視線を送

ってみる。


「…まぁ、いいでしょう。

 後で色々と言われるのも面倒ですから」


 ダメかなと思いかけたところで色々と考

えを巡らせたらしい兄貴があっさりとそれ

を了承し、先がスプーンの形になっている

ストローでかき氷を掬って俺の口元にもっ

てくる。

 水分を欲している体は半分シロップがか

かっているかき氷をすんなりと口の中に迎

えた。


 パシャパシャパシャッ


 氷の冷たさを感じるのと連続するフラッ

シュの光を感じるのとどちらが早かっただ

ろうか。

 兄貴の差し出したスプーンを咥えたまま

そちらを向くと案の定レンズ越しにこっち

を見ているカメラマンがいて、カメラ目線

になったのをちょうどいいとばかりに更に

数枚撮られてしまう。


「いいよねー、かき氷。

 …これも仕事だからさ」


 アハハと笑って見せた後で、ゴメンと顔

の前で片手を上げられてしまえばそれ以上

は何も言えない。

 かき氷を一口もらうだけで“いいシーン

いただき”みたいな空気になるなんて、本

当に脱力したくなる。

 まして相手は血の繋がっている兄貴だっ

て言うのに。





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あきゅろす。
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