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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 スポンサー企業に卒業ライブの目標値を

出された時には絶対に無理だと思ったし、

それを越えてみせると自信ありげだったク

ロードの言葉をどこか遠くに感じたりもし

た。
 
 しかしライブの中盤で兄貴、クロード、

麗がそれぞれソロ曲を熱唱して、ネットの

生放送でついたコメント数を競うなんてい

う歌バトルをやっている間にコメントカウ

ンターはありえないくらい回ってくれた。

 ステージの爆音を聴きながら舞台袖で休

憩していた俺は、その生放送の様子を片岡

先輩にノートPCでチラッと見せてもらっ

て画面を埋め尽くす弾幕に言葉がでなかっ

たほどだ。

 どうせこれで最後になるだろうしと、俺

も練習に全力を注いだしライブでは完全燃

焼するつもりでいた。

 それでも2度目のアンコールに応えた時

には爆音と疲労と熱気とでステージ上で倒

れるかと思った。

 そうしてB×Bの卒業ライブは大盛況の

内に終了した。

 スポンサー企業の設定した厳しい目標値

を達成できなければ解散とも言われていた

のに、B×Bは卒業ライブで解散しなかっ

た。

 それが誰が見ても明らかな数字のもつ力

だった。

 そして小さいながらもライブを何度か重

ねて、今こうして新曲のPV撮影で夏の島

に来ているわけで…。


 つまり何が言いたいのかと言うと、最低

のラインなんて俺の中では決めているけど

それも危ういくらいB×Bの人気は高いっ

てことだ。

 その人気を支えるファンのリクエストっ

ていうのも、今後を考えれば決して軽視は

できないわけで…。

 見せ物じゃないと反発する反面、ある側

面から見ればそれがファンを喜ばせる一因

であるのは紛れもない事実だ。

 だからこそ胸の内で絶えず葛藤があるし、

“これで最後かもしれないんだし”と一時

的に現実逃避したりする。

 アイドルを本職にしている人たちですら

明日の保証がない世界だ。

 いくらスポンサーがついてくれていると

はいえ、素人集団が頑張ったところでそん

なに長くは続かないだろう。

 兄貴はもちろん俺や麗にとってもアイド

ルは将来なりたいものではないし、クロー

ドやカイルだってイギリスに帰ったらそれ

ぞれやるべきことがあるはずだ。

 だから今だけだ、と必死に自分を誤魔化

す。

 そうでなければ過剰なスキンシップをカ

メラで撮られ、それを大量に販売されるな

んてことに同意なんてできない。

 いや、現実逃避したってそれを自分で確

かめてみるなんてことは到底できはしない

んだけれども。

 それなのに俺の中の葛藤を若さの一言で

片付けてしまう片岡先輩は、やはりただの

人ではないと思う。

 これはもう筋金入りのへんた


「まぁまぁ。

 無理強いはよくないよ、莉華」

「恵…」


 日陰でノートPCを弄っていた片岡先輩

がこちらに来て助け船を出してくれる。

 大倉先輩の理不尽なリクエストからこれ

で解放されると心の中で安堵した。


「でも駆君ももう少しくらい協力してくれ

 てもいいと思うんですのよ?

 今回はカイル君との絡みのリクエストも

 あるんですもの」

「は…えぇっ!?」


 驚きすぎて思わず変な声が出てしまった。

 カイルはB×Bの活動が本格的に始動し

てもクロードに命令されているからという

スタンスをまったく変えなかった。

 無口でストイックなカイルは華々しいク

ロードや兄貴、麗とはまた違う層のファン

を獲得しているようだがその層はいわゆる

マイナーと呼ばれる部類の人達で、そんな

カイルとの絡みのリクエストなんてもらっ

たことはなかったはずだ。

 ステージの上でのパフォーマンスだって

ハイタッチがいいところで、基本的にクロ

ード以外のメンバーとは口を聞かない。

 特に俺はB×Bに巻き込んだ張本人とし

て恨まれているし、もともと毛嫌いされて

いたのに輪をかけて憎まれているんじゃな

いかと思う瞬間すらあるというのに。





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あきゅろす。
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