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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「足りない…ね、お兄ちゃん?」


 もともと麗のジュースなのに喉が渇いて

いて飲み過ぎただろうか。

 謝ろうと顔を上げたところでグラスを俺

の手に預けた麗に両手で頬を包み込まれた。

 そして避ける間もなく唇に感触が触れた。


「れ、んっ…」


 唇の表面を撫でた唇が、声を発した隙を

ついて下唇を吸い上げてくる。

 キスの角度を変えて麗の舌が閉じきれな

い唇の間を舐めてきて体が震える。

 こんな場所で、とようやく追いついてき

た思考がようやく体を後方へ引かせる。


「ふふっ。ごちそーさま」


 当の麗はというとニッコリ天使の笑顔で

俺に笑いかけてくる。

 そうやって笑っていれば俺の言葉を封じ

込められることを、麗はよく知っている。

 そして俺は麗が満足そうに笑っているの

を見て、やっぱり何も言えなくなるのだ。

 誰も止めに入らないせいで、カメラの前

のスキンシップが回を重ねるごとに過剰に

なっていってる…のは気せいじゃないはず。


 始まりは…そう、クロードだ。

 歌がラストのサビに入る直前、ダンスが

次の振り付けに切り替わるその絶妙なタイ

ミングで肩を引き寄せられた。

 本番中、しかも一番アップテンポな曲の

盛り上がるだろうシーンで互いのマイクが

触れあうほどの距離で見つめ合いながら声

がハモる。

 ステージの向こうの黄色い歓声が一気に

ヒートアップする中、ライトのせいでほと

んど見えない観客席にクロードは視線を流

して体を離した。

 まるで本当のアイドルみたいだと俺はち

ょっと呆れてしまったけど、それが二人の

中の何かを逆撫でしてしまったのか…。

 ライブのラスト、バラード曲で今度は兄

貴に腰を引き寄せられてバランスを崩して

危うくその胸に倒れ込みそうになるし、ま

た別のライブではソロパートで前に出てき

ていた麗が後列に戻りながら俺の頬にちゃ

っかりキスをして帰った。

 そんな場面を大倉先輩が編集の時にカッ

トするどころかアップで強調してくれたお

かげで変なファン層まで獲得してしまった

らしく…。

 アイドルPVにも男同士のAVにもなり

きらない、それがB×Bの“売り”なのだ

と大倉先輩は力説していた、けど。

 とんでもない、と思う。

 今でさえアレだと思うのに、このまま過

剰になっていくのに歯止めをかけられなか

ったら、最後までカメラの前でさせられて

しまうかもしれないという恐怖が常につき

まとっている。

 淫魔の体液の前で理性がどれほど無力か

なんて嫌という位知っているから。

 そう考えるとB×Bのメンバーは俺を除

く全員が淫魔という事実は、まさにそのた

めにお膳立てされたような…いや、そんな

わけない。

 怖いことを考えるのはよそう。

 最近は本当に忙しくて、このメンツで揃

っていることが多いからそんな風に考えて

しまうだけだ。

 クロードとカイルは学校で同じ教室にい

るし、家に帰ったら兄貴や麗と一緒に過ご

しているのだから一日中誰かしらと顔を合

わせているという点において仕方がない部

分もあるのだろう。

 変な思考回路になるのは疲れているせい

だ。うん。


「お、俺、コップ返してくる」


 クロードが俺の肩に手を乗せ、何か言い

かけたところで麗が持っていたグラスを掴

んで走り出す。

 砂に足をとられて転びそうになったけど、

麗に対抗して何か言い出しそうだった空間

になんて長居するものではない。

 海の家っぽい所に行く前にカメラの向こ

うにいたスタッフの人達に「テイク出して

ごめんなさい」と頭を下げたら苦笑いでも

ういいからと言ってもらえたけど、いい画

をありがとうと言われてちょっと複雑な気

分だ。

 好き好んでやられてるわけじゃないとい

うのが絶対に分かっていない、と思う。





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あきゅろす。
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