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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 以前兄貴のスケジュール帳を見せてもら

ったことがあったんだけど、家庭教師のバ

イトってこんなに忙しいのかと思うほど予

定がギチギチに埋まっていた。

 全部名字しか書いてなかったからその時

はなんとも思わなかったんだけど、もしか

してあのほとんどは女生徒なんじゃないだ

ろうか。

 こんな可愛い子と二人きりで勉強をして

いるのかと思うと、兄貴が根っからの女性

嫌いだと知っていても穏やかでない気持ち

が頭をもたげてくる。

 でもそれは顔に出したらいけない感情だ

と胸の奥底に抑え込んだ。



「あの桐生先生、もし今お時間があったら

 一緒にお茶しませんか?

 すぐそこにカフェラテの美味しいお店が

 あるんです。

 先生にはいつもお世話になっているし、

 そのお礼がしたいです」


 “今日はクリスマスでお店もイベントを

やっているので、もしお嫌でなければ”…

と控えめだけど可愛らしい声が続ける。

 こんな目で見つめられ、こんな声で教え

を請われる二人きりの時間を月に何度…い

や月に何人の女生徒と過ごしているんだろ

うか。

 兄貴のスパルタっぷりは嫌と言うほど身

に染みているけれどもこんな子にあんなビ

シビシ教えてるとは思えないし、女性嫌い

の兄貴だってこんな控えめで可愛い子と過

ごす時間があるなら女性嫌いだって少しず

つ克服していけたり…するんじゃないだろ

うか。


「生憎と不肖の弟にこれからみっちり勉強

 を教えないといけないので。

 そのお店は友達か恋人と行って下さい」

「あ、ごめんなさい。

 えっと…弟、さん?」


 いきなりこっちに話を振られ、兄貴の手

が肩に乗って驚く。

 完全に置いてきぼりだった為に反応が遅

れたが、女生徒の方は今初めて俺がここに

いたということに気づいたらしくて長いま

つ毛をしきりに上下させている。

 誰が見ても明らかに混血と分かる兄貴と

比べ、誰がどう見ても純血の日本人にしか

見えない俺を弟と言われても俄かには信じ

難いのだろう。

 慣れているとはいえ、完全に空気だった

こととダブルパンチでこられるとダメージ

がないわけではない。


「えっと、どうも」


 苦笑いのような、なんとも言えない歪ん

だ笑みを顔に張り付けて軽くお辞儀をする。

 女生徒は特に俺に興味はないらしく軽く

こちらにお辞儀を返すとさっと兄貴に視線

を戻した。


「あの…じゃあ夜は?

 今夜もどこかのお宅でお勉強教えるご予

 定なんですか?

 夜になるとこの道はライトアップされて

 とても綺麗なんです。

 だからもしご予定がなければ」


 控えめなようでいて、一度断られてもく

じけないあたり実はそうではないのかもし

れない。

 あるいはそれだけ兄貴との約束をとりつ

けたいということの表れなんだろうか。

 兄貴はそれになんと答えるのだろうと内

心少しドキドキしながら表情を盗み見た。

 いくら女性嫌いの兄貴でも、教え子…バ

イト先のお客さん相手の誘いを無碍には出

来ないんじゃないかという考えも頭を過っ

たから。





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あきゅろす。
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