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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「擦りすぎて赤くなってますよ。

 まったく…僕のものになんてことするん

 ですか。

 もっと丁寧に扱いなさい」


 兄貴の指先が先程懸命に擦った耳に触れ

て摩擦のせいでも真冬の寒さのせいでもな

い熱が耳の端に灯る。

 でも、今なんだか聞き捨てならない言葉

が聞こえたような気がするんだけど…。


「俺の体、だし…」


 “兄貴のものである前に”と心の中では

続けていても、口元が緩んでしまう。

 とても兄貴らしい言い回しで心配されて

いるし愛されているんだと幸せな気分にな

っているなんて、単純だと笑われるのが分

かっているから悟られたくない。

 我ながら重症だと思うけれど、どうして

も口元がニヤついてしまい誤魔化すように

顔を背けた。

 人前でなければ、ここが街中でなければ

兄貴に触れることにももう少し躊躇しなく

てもいいのに…なんて思ってしまう。

 その体温に触れられないことに、いつま

で我慢できるだろうか。

 クリスマスだし、兄貴の部屋に帰ったら

少しくらい俺の方から甘えてみてもいいか

もしれない。


「桐生…先生?」


 耳慣れない女の子の声が響いてそちらを

向くと、ファー付きの明るいブラウンのコ

ートを羽織った女子高生くらいの女の子が

立っていた。

 緩くカールした髪を揺らしながらフェミ

ニン系の雰囲気で近づいてくるその子は、

クリスマスでごった返す街の中にあっても

ちょっと人目を引くくらい可愛い。

 人にぶつからないように、それでも小走

りで近づいてくるその姿は冬でありながら

柔らかい空気を纏っていてそこだけ切り取

ったのかと思う。

 兄貴と向き合う姿は見事なまでに絵にな

っていて、まるで待ち合わせた恋人のよう

にも見えるだろうか。


「こんなところで桐生先生に会えるなんて

 思いませんでした。

 クリスマスはお忙しいっておっしゃって

 いたから会えないかなって思ってたんで

 す」


 頬を染めて上目遣いに兄貴を見上げる様

子は傍から見ていても愛らしく、その目で

見上げられている兄貴の気分はいかほどか

と思う。


「さっきまで別のお宅で勉強を教えていた

 んですよ。

 今はその帰りです」


 にっこりと微笑みあう二人は他人を寄せ

付けないオーラをもっていて、急に画面の

外に弾き出されたような疎外感が襲ってく

る。

 少し前まで兄貴の指先が触れていた耳の

端が急激に冷えていく。

 兄貴を桐生先生って呼んでるってことは

家庭教師のバイトで教えている生徒だろう

か。

 兄貴は割のいいバイトだと言っていたけ

ど、まさかあんなに女性嫌いな兄貴が女生

徒を教えているなんて思わなかった。

 いや兄貴は性格はアレだけどこの容姿だ

し頭もいいし、中学・高校時代を振り返れ

ば女生徒の指名が高いだろうという予想は

簡単につくけれども。

 それでもショックだった。

 女性嫌いだから女生徒と1対1で勉強を

教えるなんて想像もできなかったから。

 しかもこんな可愛い子に教えているなん

て。

 いや、もしかしたら他にも可愛い子が沢

山兄貴を指名しているんじゃないだろうか。





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あきゅろす。
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