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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「こんな…人前だろっ」

「自分が思っているほど他人に興味のある

 人間なんていませんよ。

 特に今日はね」


 離れなきゃと思って兄貴の肩を掴んで押

しやりながら後ろに一歩引くと、兄貴はそ

んな焦る俺の様子を意地悪く笑って眺めて

いた。

 なんかムカつくんだけど。

 でもとりあえずそれは横においておかな

いと、今つっかかると俺が知りたいことを

訊きそびれてしまう気がする。


「それで…さっきのは何だったんだよ?

 俺、全然状況が分からなかったんだけど」


 “正確なところは本人に確認しなければ

解りませんけど”そう前置きして兄貴はザ

ッと説明し始めた。


「駆に彼の姿が見えなかったのは、おそら

 くそういう系統の暗示か何かをかけられ

 ていたからでしょう。

 クロード・J・クラウディウスも使って

 いたと言っていましたけど、淫魔はあの

 手のことは朝飯前ですから。

 完全に撒いたと駆を油断させて一人きり

 になったところを喰べようとしたのか、

 あるいは自宅に帰ると踏んで自宅を割り

 出してからからゆっくり…と思っていた

 のかは定かではないですが」


 兄貴は顔色一つ変えずにサラリと言って

いるけど、それは自分が知らない所で取り

返しのつかないことが進行していたという

背筋の凍る事実じゃないんだろうか。

 だってもし本当に俺が帰宅する時に尾行

されたとしたら、そしてそれを俺自身が最

後まで気づけないのだとしたら無防備にも

ほどがある。

 兄貴が常日頃から無闇に出歩くなと口を

酸っぱくしている理由が、ほんの少し解っ

たような気がする。

 家に尾行されれば麗や母さんに被害が及

ぶ可能性もあるし、今日の場合は兄貴に迷

惑がかかる可能性があったわけで…。


「視神経を完全に機能不全にさせてしまえ

 ていたら楽だったんですが。

 あの程度ではおそらく目くらましがせい

 ぜいでしょう。

 騒ぎが大きくなっても面倒ですから、今

 日のところはあれでよしとしましょうか」


 …うん?


「ししんけいって、何のこと?」

「やれやれ、そんなことも知らないんです

 か。

 視神経というのは網膜に投射された光の

 刺激を、視覚中枢である大脳後頭葉に」

「それは分かったけど、なんか機能不全と

 か聞こえたんだけど…!?」


 兄貴は何を勘違いしたのか視神経の説明

を始めようとするが俺が気になっているの

はそこじゃない。

 “完全に機能不全にできればよかった”

 それってつまり…。


「身の程をわきまえないゴミに人権なんて

 ありませんよ。

 あぁ、そもそも人間でもないですけど」


 兄貴はまったく声のトーンを変えずにあ

っさり言いきった。

 兄貴が絵に描いたような優等生としての

表情を作らないのは、それだけ気を許した

相手か人以下のものとして見下した相手に

だけだ。

 どうやらあの黒服の男は後者らしい。

 二人の間にどんなやりとりがあったのか

俺には分からないけど、少なくとも兄貴の

逆鱗に触れることをしでかしたのではない

だろうか。

 もしそうだとしても、視神経の完全な機

能不全…失明まではやりすぎたと思うけど。

うん。

 まぁそもそも他人の視神経を触らずにど

うにかするなんて出来るはずはないし、俺

の見ていない所で何か目くらましになるよ

うなものを使ったんじゃないだろうか。

 とりあえず兄貴の場合は尾行されたこと

と同じくらいに兄貴を怒らせることが怖い

…かもしれない。





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あきゅろす。
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