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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「何がどうなってるのか全然わからないし

 説明して欲しいんだけどっ」

「説明を求めたいのは僕の方です。

 何かされたのかと尋ねた時に“別に何も”

 と言いましたよね」


 ギクッ…


 やましいことまでは…されてないのに、

兄貴の静かに怒っている視線に晒されるの

は耐えきれなくて思わず視線をそらしてし

まう。

 “撒いたと思ったから…”とボソボソ言

い訳したけど、兄貴の視線に鋭さが増した

だけで完全に逆効果だった。

 クリスマスで華やぐ街の喧噪が遠ざかり、

ここだけが切り取られたような錯覚を起こ

す。

 言葉に詰まり沈黙に耐えかねて、一度手

を耳元に伸ばしてやめ、長袖の袖口を引っ

張ってさっき舐められたところを乱暴に擦

った。

 舐められた場所を直接触りたくなんてな

い。

 だけどそのままにするのはもっと気持ち

悪くて、舐められた感触ごと消したくて耳

が熱をもつほど袖口で擦った。


「それで僕が誤魔化されるとでも?」

「そんなつもりじゃ…」


 間が持たなかったのは確かだけど、冷た

い目で俺を見てる兄貴がその程度で引いて

くれるなんて思ってない。

 でも俺だって好きでこんな体質になった

わけじゃないし、あの黒服の男にちゃんと

抵抗もしたし突き飛ばして逃げたし、これ

以上何をすればよかったのか。


「…言わなかったのは悪かったけど」

「声が小さくて聞こえませんよ」


 俯いてボソッと呟いたのが雑音の中でも

解ったのか、打って響く様なタイミングで

返ってくる。

 促すような声に沈黙で返すこともできず

に腹を括った。


「だって変なことはされなかったし、兄貴

 にもメールしようか迷いもしたけど…心

 配かけたくなかったから」

「変な事をされてからじゃ遅いんですよ。

 まして相手が人間でないのならば。

 解っているんですか」


 “フェロメニアとして捕えられ、絞り尽

くされて殺されたいのか”

 兄貴の冷たい目が俺を詰る。

 兄貴の心配は分からなくはないけど、で

もそうして俺の体質が異質なんだと突きつ

けられると心の持って行き場がない。

 人並みの日常生活すら贅沢なのだと非難

されているような気分になる。


「解ってるよ…」

「いいえ、解っていませんね」


 俯いて絞り出した声は拗ねたように響い

て情けなかったけど、兄貴の声が追い打ち

をかけるようにバッサリ切り捨ててくれて

その感情に浸っている暇はなかった。

 悔しくて情けなくて、でも俺だけ責めら

れる理不尽さに悶々としていると兄貴がず

いと顔を近づけてきた。


「僕の全てが駆のものなら、駆の全ては僕

 のものだと言ったでしょう。

 僕の許可なく僕のものに触れる隙を与え

 るなんて、躾直さないといけないでしょ

 うね」


 近い近い近いっ!!

 いくらクリスマスの人で溢れ返る駅前だ

としても、手を繋いでいちゃついてるカッ

プルで溢れている街中だとしても、吐息が

耳にかかる距離はいくらなんでも近すぎる。

 …心臓が跳ね上がる勢いでバクバク脈打

ってるなんて兄貴には絶対に悟られちゃい

けない…ような気がする。





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あきゅろす。
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