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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「進路なんて決まってるやろ。

 イギリス行こ、イギリス。

 移住して向こうの学校通お。な?」

「わっ?!ちょっ、重いっ」


 しれっとした顔で割り込んできたクロー

ドはついでという風に俺を抱き寄せてきた。

 言ってることもやってることも俺の意志

なんて無視なのは相変わらずだ。

 クロードのペースに巻き込まれたら負け

だと思うが、今度こそ逃がすまいとしてい

るのかクロードの腕が解けない。


「お兄ちゃんにくっつかないでよ。

 嫌がってるでしょっ?」

「さっきから駆にくっつきっぱなしのお子

 様に言われたないわ。

 はよう兄離れしたらどうや?」

「見苦しいですよ。

 こんな所で騒がないでもらいたいですね」


 バチバチを火花を散らす二人を冷ややか

な視線で刺しながら戻ってきた兄貴は、俺

に預けていた本を受け取るかと思いきやそ

の手首を引っ張って引き寄せる。


「わっ…」


 しかし兄貴の思惑通りにはならなかった。

 二人の意識は一瞬削がれていたようだけ

ど、緩んでいたクロードの腕にいち早く力

が籠って逃がしてくれず、一瞬遅れて麗の

手にもしっかりと握り込まれてしまう。

 反射神経が研ぎ澄まされ過ぎているのも

問題だと…思う。


「は、はなし…」


 俺の訴えは俺を置いてきぼりにして言い

合っている三人の声に掻き消されていく。


 重い。

 なんだか色々と重い。


 “みんな幸せに”

 我儘すぎる願いに対する罰だろうか?

 いや、そもそも今の状況は俺が幸せなの

か…?


「そんなわけ、あってたまるかーっ!」


 突然、何の前触れもなくぷつんと切れた俺の

声に3人が驚いている間に、麗の腕を振りほど

きクロードの腕を引っぺがして兄貴の胸に本を

押し付ける。

 誰の腕が伸びてくるより早くその場所から抜

け出すと、走り出しかけて振り返り3人をビシ

ッと指さす。


「俺は俺のしたようにするっ!

 お前らの都合で俺を振り回すなっ!」 


 勢いを緩めもせずにそう言い切ると、新

聞部員が楽しく花見をしているシートに走

る。

 後ろから追いかけてくる気配がするけど、

誰かの腕に囚われることなんて望んでない

から。

 だからどうか捕まりませんように。


 一際強い追い風が吹いて桜の花びらの混

じる風が背中を押す。

 それに後押しされる形で俺はスピードを

上げた。









           end






[*前]

あきゅろす。
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