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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「麗こそ何をお願いするんだ?

 たった一つだけ願いが叶うなら」

「僕はね、“誰にも邪魔されずにお兄ちゃ

 んと幸せになれますように”」


 ニッコリと笑う麗に申し訳ない程度の笑

い声でしか返事が出来ない。

 “誰にも邪魔されずに”と言うあたり、

常日頃の鬱憤が透けて見えるようだ。


「いつまでボーっと突っ立ってるんですか」

「あ、兄貴」


 さっきまで離れた場所で桜にもたれかか

って本を読んでいたと思ったのに、すぐ傍

まで来ていたようだ。


「暇でしょうから持ってて下さい。

 くれぐれもどこかに置いて汚さないよう

 に」

「え?あっ…」


 言われるやズシッと本の重みが手に乗せ

られる。

 さっきまで兄貴が読んでいた本らしい。

 タイトルから察するに法律関係の本のよ

うだけど、こんな分厚い本をなにも花見パ

ーティに持ってこなくてもいいと思う。

 いや、そもそも引っ越したばかりで新学

期の準備や部屋の片づけも忙しいだろうに

なんでわざわざ花見に顔を出したのだろう?

 もう生徒会長の任期はとっくに終わって

しまったし、かといって同級生だった大倉

先輩や片岡先輩と親しいというわけでもな

いらしい。


「本くらいベンチに置いて来ればいいの

 にー…」


 さっさと遠ざかっていく兄貴の背中を見

ながら隣で麗がボソッと呟いたのを見て察

した。

 もしかしてそういうつもりで来たんじゃ

ないかと。

 いやそもそも尋ねたところで答えてはく

れなさそうだけども。

 それにしても。


「重い…。

 兄貴、本当にストレートで合格するつも

 りなのかな」


 いや、他でもない兄貴が言うのだからき

っと実現させるのだろう。

 それでも院や研修期間を経て受験資格を

得るまでがすでに難関で、単に合格率だけ

で語れる資格ではないのだけど。


「僕はお兄ちゃんの方が気になるけどね。

 進路はもう決めたの?」

「明確にどこに行きたいっていうのはまだ

 ないかな。

 学科とか学部とかありすぎて迷うし、そ

 もそも自分のやりたいことと出来ること

 って違うから」


 終業式が終わった後、1年の時に担任だ

った櫻内先生のHRでの言葉だ。

 “全員が全員、本当にやりたい仕事に就

ければいいが、本当にやりたいことを仕事

にできているのはほんの一握りの人間だけ

だ。

 厳しいことを言うようだが、やりたいこ

とじゃなく自分に出来ることをなるべく早

くに見極めて才能を伸ばせ。

 その上でどうしてもやりたいことをやり

たい奴は、それが社会で通用するまで死に

物狂いで磨き上げろ”

 普段ヤンチャな冗談を飛ばしたり、悪ノ

リしすぎて生徒を小突き回して教頭先生に

怒られている櫻内先生だけど、教師として

生徒を育てる目で将来に幻想を抱かせない

…けれど夢を捨てさせもしない口調でそう

いう姿はカッコ良かったと思う。

 進学校の2年になろうというのに卒業後

の進路も定まらない俺はのんびりしすぎて

いるのかもしれないけど、兄貴が言うよう

にそろそろ高校卒業よりもっと先を見据え

ないといけないかもしれない。





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あきゅろす。
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