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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 と、後ろからポンと誰かが肩に触れた。


「駆?」

「うわっ!?」


 名前を呼ばれたような気がしたのと俺が

驚いて叫んだのがほぼ同時で、その声を危

うく聞き逃すところだった。

 いや、かろうじてパニックを起こさない

でいられたのはあからさまに不審な態度を

とった俺の肩を兄貴が痛い位に握ってくれ

たおかげだけど。


「どうしたんですか、こんな所で。

 まさか降りる駅を間違えたなんて言いま

 せんよね?

 先に部屋に行っているように言ったはず

 ですけど」

「え、あ…えーと」


 “あはは”と苦笑いするのが手一杯で、

とっさに言い繕う言葉が出てこない。

 とりあえず痛いから肩を掴んでる手を離

して欲しいんだけど。


「あ、あのさ…全然関係ないんだけど、俺

 って匂う?」


 ある意味直球と言えば直球な質問をぶつ

けてみる。

 だってフェロメニアが香る時は、その…

欲情した時だけだと思ってたから。

 何もしてないのに香っているのなら、そ

れはものすごく問題…なのかもしれない。

 しかし兄貴はその問いかけに答えるより

早く、周囲にザッと視線を走らせる。

 すると俺がさっき視線を感じたような気

がした辺りのところでピタッと視線を止め

る。


「…あれですか」

「あれって…?」


 その辺りにやっぱりあの怪しげな男がい

るんだろうかと視線を向けてみたけれども、

あの目立つ出で立ちの黒い服の男は見つか

らない。

 黒で統一していたメタル風ファッション

だしピアスはゴテゴテつけまくってるしで

いればすぐに分かるような出で立ちだった

はずだ。


「あの黒服の男でしょう?

 悪趣味なピアスをしている」

「えっと…俺には見えないんだけど。

 でも黒い服だったし、ピアスはいっぱい

 つけてた、かな…?」

「その男に何をされたんですか」


 男の容姿を思い出していると、隣にいた

兄貴に睨まれた。

 どうしてすぐに言わなかったのかとその

目が責めている。


「べ、別に何も…。

 ただちょっと…気持ち悪いなぁって」


 まぁ変に絡まれたりはしたけれども実害

があったかと言えばそうでもないし、まる

きり嘘というわけでもないだろう。


「ここで待っていなさい」

「え?あ、兄貴っ?」


 肩に置かれていた手が離れ、じっと凝視

していた方へと兄貴は迷うことなく歩いて

いく。

 確かにそちらにも人はいるけれども、俺

に絡んできたあの男の影はちっとも見えな

い。

 本当にそっちにいるのだろうかと心配し

て待っている間に、目の前の停留所にバス

が到着した。

 しかし兄貴を置いていけるはずもなく、

俺は並んでいた人の列から外れて兄貴の背

中を追いかけた。





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