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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 終わりの見えない悶々とした考えをとり

あえず横に押しやって、あと何駅だっただ

ろうかと電光表示板を見…ようとした。


 スル…


 …うん?


 クリスマス直前ということで日中と言え

どもそこそこ車内は混んでいる。

 荷物やらが体に触れてしまうのは仕方が

ないかという混み方だったから今まで特に

気にしてはいなかったけれど、今なんだか

生温かいものが尻を撫でた気がする。


「……」


 チラリと馴染みのない単語が頭を過った

けど、直後にそんなわけはないと否定した。

 イブの今日は学校帰りの女子学生やこれ

からデートなのだろう着飾った若い女子が

視界に入るだけで何人も乗車しているよう

な状況だ。

 私服だし、性別を間違われたこともない

自分の尻を撫でるような酔狂がどこにいる

のか。

 勘違いでなければ、寂しいクリスマスを

過ごさなきゃならない誰かが自棄を起こし

たとしか思えない。

 しかし間をあけてさりげなく触れてくる

何かは気づいていないとでも思っているの

かその間隔を短くしていく。

 ついにはハッキリと掌が尻に押し当てら

れたことで、それがただの勘違いではない

と悟った。

 しかし“この人痴漢です”なんてやって

も誰も信じないだろうし、そんなことで視

線を集められる度胸もない。

 体の向きを少し変えながら立ち位置をず

らして尻を壁側に近づける。

 もし仮に女の子目当ての痴漢だったとし

てもこれで手出しは出来ないだろう。

 視線は窓の外に固定したまま、もし俺の

勘違いだったらと思うと恥ずかしいから犯

人捜しなんてしたくないけれども、もし相

手が勘違いしてるんだったら男ですよ、と

アピールはしたい。

 いや、それで本物の女の子のほうへいっ

てくれとは思わないけども。

 今日くらいショックで痴漢なんてやめて

くれないだろうか。

 せっかくのクリスマスイブに嫌な思いを

する知らない誰かなんていないでほしい。

 と、ガタンッと車体が揺れた。

 不意打ちの揺れに真横にいた誰かが倒れ

込むようにして俺の寄りかかっている壁に

手をついてくる。

 俺より長身の影に押し潰されなくてよか

ったとほっとしたけど、煙草の匂いを漂わ

せるその影は車内の空気が落ち着いても一

向に体を起こさない。

 それどころか馴れ馴れしく顔を近づけて

きて、いい加減に鬱陶しくなった俺はたま

りかねてその人影に視線を向けた。


「あの…、ちょっと」

「イイ匂いするな、アンタ」


 耳だけでなく唇や鼻にもピアスをいくつ

もつけ呼気に煙草の匂いを含ませて吐き出

してくるその男は、初対面なのに馴れ馴れ

しい態度で俺の首筋に鼻先を近づけて匂い

を嗅いでいる。

 一見して女遊びの激しそうなチャラ男に

も見えるけれども、何か特殊な性癖でもも

っているんだろうか。


「やめて下さい。俺、男ですよ」


 キッパリと言いきりながら、首筋に触れ

そうなほど近づいてきた顔に耐えられなく

なってその人の肩を押し返す。


「そんなの見りゃ分かるって。

 たださー、なんつか…ムラムラしてくる

 んだよね、アンタの匂い。

 俺、女しかダメだったんだけど」


 なんなんだ。

 いい匂いって何か食べ物の匂いか、もし

くは女の人のつけている香水か何かが服に

移ったんじゃないのか。

 男がムラムラするような匂いなんて、男

の俺がどうして匂わせていると思うのか。

 しかし匂い移りなら衣服についているは

ずで、肌そのものに鼻先を近づけているこ

の男の行動は不可解だ。





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