[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 ぼくの中で一番古い記憶は、遠い昔にみ

た夢。


 まだぼくが自分で立ち上がれたばかり

で、言葉もろくに交わせないくらい幼かっ

た時にみた夢。


「お前にはユメワタリの力があるようだ

 な…」


 両親の言葉さえよく理解できていなかっ

たのに、夢の中のその人の言葉はスッと頭

に入って理解することができた。


「ユメワタリとは様々な人の夢に入り込む

 能力のこと。

 そしてその生気を少しずつ吸い取り糧に

 するのが、俺たちムマの能力」


 その時はまだ幼過ぎてよくわからなかっ

た。

 でもその男の人は繰り返しぼくの夢に出

てきて、ユメワタリを教えてくれた。


 もう少し大きくなって、学校の図書室の

本を読んで、その言葉が何なんなのかを意

味として理解した。


 “夢渡り”をして他人の夢に入り込み、

気持ちのいい夢を見せて人間の生気を吸収

する“夢魔”




 でも言葉の意味を理解するよりずっと前

に、ぼくはもう一人で夢渡りができるよう

になっていた。



 その男の人がぼくに一番始めに教えてく

れたこと。

 それは夢渡りをするのに一番大切なこと

だった。


「いいか、麗。

 夢渡りをする時は他人の夢に呑まれる

 な。

 それは嵐の海に裸の身を投げ出すような

 もの。

 とりとめもなく無秩序な世界に自分を預

 ければ、その夢が消え去った時にお前自

 身の意識まで一緒に消えてしまう」


 それは言われるだけで本当に恐ろしいこ

とのようで、ぼくは震えながら頷いた。


「他人の夢を渡る時は常に自分自身を意識

 しろ。

 決して流されるな。

 そこは相手の心がつくり出した世界で、

 お前は万能ではない。

 しかし…もしお前が夢の終わりにその身

 を安心して預けることができる相手に巡

 り会えたなら…」



 男の人はその先を言わなかった。


 でも数えきれないほど夢渡りを繰り返し

ながら、ぼくはやがてその先の言葉を理解

した。



 そう…そんな人に出会えたなら、その人

こそがぼくの…






[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!