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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「莉華が何を心配してるのかはわからない

 けど、私たちは学校や職場が違っても従

 姉妹だし幼馴染だっていう事実は変わら

 ないよ。

 …さすがに恋人ができたとしたらコピー

 本の製本は手伝えないと思うけど」


 言いかけで、続く言葉が消えた。

 莉華が立ち上がったと思ったら額に置か

れた手を後ろに押されて顔が上向かされる。

 え?っと思った時には柔らかい唇に唇を

塞がれていた。

 目の見開いたまま硬直していると、もう

冗談とは言い逃れできない程たっぷりと間

を開けてからようやく唇が離れる。


「イヤ、なんですの。

 恵が誰かと手を繋ぐのもキスをするのも。

 でも恵が私に対して抱いている感情と私

 が恵に対して抱いている感情は違うから

 …だから今まで黙ってましたの」


 泣き出しそうな苦しそうな目が至近距離

から私を見下ろしていて、じわじわとその

意味を理解していく思考はとても莉華の喋

るスピードには追いつけなかった。


「でも春からは恵と離れてしまう。

 自分が選んだ進路に後悔はないけれど、

 恵が私の手の届かない所に行ってしまう

 のがどうしようもなく不安で、寂しくて、

 嫌でたまらないんですの」


 春からの新生活に対する不安や親しい友

達と毎日会えなくなる寂しさは私も感じて

いた。

 けれども莉華が今目の前で訴えているそ

の感情とはまた一線を画しているのだろう。

 ぽかんと見上げることしかできない私の

視線に耐えかねたように、珍しく莉華の方

から視線をそらした。

 これ以上の沈黙には耐えられなかったの

かもしれない。

 なんとか追いついてきた思考が、ようや

く今までの疑問を線で結んでくれた。

 莉華は可愛いから今まで付き合おうと告

白されたことなど何度もあったらしいし、

その何回かは私も出くわしたことがある。

 けれども莉華はその誰とも付き合わなか

った。

 私をダシにしてイチャついてるフリして

そういうのを先手を打って遠まわしに拒否

しているようにすら見えたこともあった。

 逆に私が男子生徒と話していると莉華が

よく会話に混ざってきた。

 いつも莉華が横にいるのが普通だったか

ら特に不自然な流れではなかったけど、言

われて思い返すと男子と二人きりという状

況にはなった覚えがない。

 莉華のBL趣味が発覚して一度大喧嘩し

た時も、莉華の反応は過剰だったのではな

かったか。

 そもそもあんなに莉華がムキにならなけ

れば大喧嘩になんてならなかったはず。

 莉華があんなに過剰反応したのは、自分

の趣味を私が受け入れなかったから…だけ

ではなかったとしたら。


「好き…なの?私のこと」

「好き、ですわ。ずっと前から」


 戸惑いながらようやく口に出した単語を

莉華はあっさりと、むしろ強調して返して

きた。

 その気持ちがずっと昔から揺るがぬこと

を証明するみたいに。


「……」


 だからなんと返せばいいのか分からなか

った。

 気のせいだよ、勘違いだよで済ませられ

たら今まで通りの二人でいられるかもしれ

ないという淡い期待はあっさりと打ち砕か

れてしまったから。





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