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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 果たしてその願いが届いたのかどうか。

 頬を舐め上げた舌が耳の上半分を口に含

んだ。

 いつ歯を立てられるのかと完全に体を硬

くしてその時を待つ。

 掴んだままの股間を揉み込まれたけれど

恐怖で竦み上がるそこを揉まれたところで

更に恐怖を煽られるだけだった。

 焦らすようにたっぷりと口に含んだ部分

を舐め回す。

 もう恐怖で奥歯がカチカチと鳴って祈り

もどこかに吹き飛んだ。

 耳にかかる吐息に肌が粟立つ。

 もういっそ一思いに、と思ってしまった

その刹那にズブッと何かが耳に打ち込まれ

た。

 ビクッとバネのように体が跳ねる。

 やや間があってジワジワと痛みが噛まれ

たままの箇所を襲う。

 溢れてくる血が啜られきらずに耳を伝い

落ちていく。

 あぁ、本当に噛まれたんだと一瞬遅れて

理解する。

 しかも生易しい噛み方でないことは流れ

る血が物語っていた。

 このままこの暗闇の中で文字通り耳から

食われるのか…。

 息苦しいくらいの絶望が体を階段に縫い

付ける。

 もう抵抗など無駄な気がして。


 ガッ、ドンッ


「あぁ、いましたね」


 身を包むんでいる闇よりも浅い暗闇の中

から声が降ってきた。

 天井になっている分厚い床が持ち上げら

れどこか別の所に放られたのだと気づいた

のは、血だらけになっているだろう耳から

クロードに似た化け物が口を離してからだ。


「今更なんや?

 このニンゲンは俺の獲物やさかい、邪魔

 せんといてんか」

「獲物の印もつけずに獲物だと言われても、

 ね。

 先ほどはあなたの顔を立てて差し上げた

 でしょう。

 館の主であると大きな顔をするなら、自

 分で決めたルールくらい守ったらいかが

 です?」


 深すぎる闇に慣れた目ならばなんとなく

わかる。

 これは兄貴…に似た化け物。

 救ってくれるならこの際誰でもいい。

 悪魔でも、化け物でも。

 けれど、どうせ殺すなら一思いに殺して

くれないか。

 まさに前門の虎、後門の狼。

 どちらに食われても大差はないような気

がする。


「いつまで寝転がって呆けているんですか」


 嫌味を言われて反論できずにいるらしい

クロードの下に敷かれた俺の手首を掴んで

引き上げる腕。

 やはり人間の握力じゃないと変なところ

に関心していたらクロードが掴んでいた手

をそのままにしていたらしく手首を両端に

引っ張られることになった。


「いたっ!いたたたたっ!」


 体がギシギシと悲鳴を上げる。

 噛まれた耳もズキズキと痛むのに、それ

以上の痛みが両肩にかかって悲鳴をあげた。


「今から獲物の印つければええだけやろ。

 横取りせんといてんか」

「横取りもなにも、まだあなたの獲物では

 ありませんから。

 唾つけたくらいで我がもの顔されても困

 ります」


 しかし二人はこっちの都合などおかまい

なしで、このまま肩の関節が抜けるかと思

う。


「痛いっ!痛いってば!!」


 ギリギリと強くなっていく力加減に叫び

声を上げる。

 しかし二人の腕は振りほどけるほどの隙

もない。

 もう恐怖と痛みとで頭がおかしくなりそ

うだった。





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あきゅろす。
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