[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 呆然とこれからどうしようかと考えてい

たら、目の前にパタパタと走ってくる影が

あった。

 俺より身長の低いその人影は、全身をボ

ロボロの包帯でグルグル巻きにしている麗

だった。

 あんなにグルグル巻きにしていたら動き

にくくないんだろうか…とぼんやり考えて

いたら甘い匂いを放つチーズケーキを乗せ

た皿を差し出された。


「Trick and treat?」


 小首を傾げる姿は可愛いけど、できれば

こんな世界でない場所で見たかった。


「あぁ、ハッピーハロウィ、んっ!?」


 とにかく差し出された皿を受け取り、籠

の中のクッキーを渡そうと手を入れたとこ

ろで首に腕を回されてガクンとバランスが

崩れる。

 ギリギリのところで手に持っているもの

は落とさずにすんだけれど、代わりに油断

をしていた口元は塞がれて信じられない力

でこじ開けられた。

 強引に割って入ってきた舌を絡め取られ

て焦る。

 いくらなんでも人目を憚らなさすぎてな

いか?

 こんなおかしな世界で常識なんてどこま

で通用するか疑問だけれども。


「んッ…」


 顔を背けることもできずに舌を引きずり

出される。

 その舌に甘く鋭い歯をあてられてビクッ

と体が震え、その隙にたっぷりと唾液ごと

舌を吸われた。


「んぅッ」


 舌が麗の口内に触れてとっさに下半身を

襲う熱を覚悟したけれど、それはいつまで

経っても訪れなかった。

 そうか、おかしな世界だから現実世界と

同じ理不尽はないのか…と余裕の冴えた思

考で納得する。

 が、だからといってこの状況が好ましい

とは思えないけど。

 どうしようかと考えている間に長い影が

闇を深くした。


「〜…!もう、酷いよっ!」


 たまりかねたように麗がようやく俺を解

放してくれた。

 包帯を赤く濡らしている麗の後ろには空

のグラスを傾けている兄貴の姿。

 どうやらワインを麗の頭上から零したら

しい。

 決して褒められた行為ではないけれど、

とにかく助かった。


「約束事を破っていつまでもそのニンゲン

 を独り占めしているからですよ」


 両肩を怒らせて抗議する麗をフンと鼻で

笑って空になったグラスを古びたテーブル

クロスのかかっているテーブルに置く。


「破ってないよっ!

 ちゃんと言ったし、ニンゲンもちゃんと

 返事したもんっ!」


 いつもまともに口をきかないくらい仲が

悪い二人だから、口喧嘩になってしまった

時の対処に迷う。

 いつもは仲裁に入る前にどっちかが打ち

切ってしまうのだが、目の前で睨み合う二

人はどちらも引く気はないようだ。





[*前][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!