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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「その前に約束事があったわ。

 約束は破れない。

 でもニンゲンが渡さなかったら、約束通

 り食べてしまいましょう」


 抑揚のない静かな声で言いきる清水。

 その清水にもっともだと頷いた牧村は、

その場にぐったりとする清水を残してこち

らに駆け寄ってきた。


「ニンゲン!

 Trick and treat?」


 黒猫な牧村は黒い毛で覆われた長い爪の

光る掌をこちらに向け、おどけた口調で尋

ねる。

 特殊メイクかと言いたくなるような出来

に仮装にしては本格的すぎやしないかと思

ったけれど、とにかくハロウィンのつもり

なら持っているクッキーを渡せばいいだけ

だろう。

 籠を漁って2つ、差し出された黒猫の牧

村の手に押し付けるように乗せる。


「ハッピーハロウィン?

 と、とにかくいいや。

 牧村、お前もうちょっとマシな衣装なか

 ったのかよ?

 清水もなんか顔色悪いしっ。

 カイルが案内してくれるから、早く館へ

 …ぇっ!?」


 こんなおどろおどろしい空気は払拭した

くてどさくさに紛れてカクカクとした一見

おかしな動きで歩み寄ってきていた清水の

手を引こうとしたけど、その陶器のような

感触や人肌とは思えない体温に思わず驚い

て手を引いてしまった。

 月明かりにその肌が照らされて改めてよ

く見るとレースがたっぷりとあしらわれた

ドレスの袖口から覗く手首にも指にもハッ

キリと継ぎ目が見えた。

 おかしい。こんな世界はおかしい。

 知り合いによく似ているのに、どうも人

間っぽくない。

 カイルも清水も牧村も、みんなおかしい。

 このままカイルについていって大丈夫な

んだろうか。

 不安が脳裏を駆け抜けてふと振り返った

けれど、そこにあるのは黒より深い闇。

 帰り道はおろか館へ続く道さえも闇の中

に沈んでいた。

 ランタンを持って遠ざかっていくカイル

の白いシーツがぼんやりと闇の中を浮かん

でいる。


「ちぇッ、ニンゲン持ってたよ。

 約束のもの持ってたよ。

 つまんないの!」

「そうね、持っていたわね。

 でもきっと人数分は足りないわ」


 二人が何やら話を続けているけれど、こ

のままカイルを見失うのは非常にまずい気

がした。


「カイル!待てってば!」


 何やら不穏な方向に二人の話は向いてい

るような気がしたがここでカイルを見失う

方がよっぽど痛手に違いなく、二人を残し

てその場を走り去るしかなかった。


「約束のもの足りないの?

 足りないなら誰が食べるの?」

「誰でもいいの。

 誰かが残れば、あのニンゲンが今夜の晩

 餐」





 シーツのお化けに追いつく頃にはもう館

の前まできていて、改めて見上げると洋館

はただ古いだけではない空気で覆われてい

た。

 硝子はひび割れ、枯れた蔦がはびこり、

とても人が住んでいるような気配はなかっ

た。

 お化けでもでそうな、というに相応しい

外観だ。





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