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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 と、ふと目線が下に落ちて気づいた。

 さっきからなんとなく感じていた“違和

感”の正体。

 シーツお化けの足が見えない。

 一歩進むごとに白いシーツの端は揺れて

見えるのに、そのすぐ下に見えるはずの足

が見えない。

 それに気づいてゾッと悪寒が背中を撫で

たが、光源がシーツお化けの持つカボチャ

のランタンでは足元までハッキリ見えない

だけだと自分を納得させた。


「街を闊歩する悪霊の中には有名な悪霊も

 存在する。

 ジャック・オ・ランタン。

 酒癖が悪く、狡賢かったジャックは毎日

 のように誰かを騙しては悪事を重ねてい

 た。

 ある日とうとうジャックは悪魔を騙して

 死んでも地獄に落ちないように契約を結

 ぶことに成功した。

 だがジャックは死後、生前に重ねた悪行

 の数々のおかげで天国に入ることも許さ

 れずに天国と地獄との間を彷徨う悪霊に

 なった」


 ゾクッと背中が震えたのは冷たい夜風が

背中を撫でたからか、それともいつもより

低いカイルの声が恐ろしげに響いたからだ

ろうか。

 そういえばシーツお化けの持っているカ

ボチャのランタンは、ジャック・オ・ラン

タンと言わなかっただろうか?


「ジャックは悪魔から燃え続ける石炭をも

 らうと道端に転がっていたカブをくりぬ

 いてその中に入れ、それを手に今も天国

 と地獄の間を彷徨っているのだという。

 特別な魔力を秘めたハロウィンの夜には

 ジャックもまた街を歩き道ずれを探して

 彷徨っている」


 突然立ち止まったシーツお化けに合わせ

て立ち止まると、振り返ったカイルが俺の

目の前にランタンを差し出した。

 カボチャではなく、恐ろしげな形相を彫

り込まれたカブのランタンを。


 バサバサバサ!


 計ったようなタイミングで大量の羽音が

して、思わず体を震わせてしまった。

 暗い木々に覆われた墓地だと思っていた

けれど、どうやらそれらは全て枯れ木で大

量のコウモリが留まっていたいただけらし

かった。

 ますますおぞましくなる情景にもう泣き

たくなってしまったけれど、立ちすくんで

いたところで足を踏み入れてしまった以上

はもうどうすることもできなかった。

 と。


「あれ…?」


 コウモリたちが月明かりを遮っていたせ

いで見えていなかった人影が視界の端に映

った。

 雰囲気こそ背景に溶け込んでいるが、そ

の顔には見覚えがある。


「清水と牧村…?」


 思わず歩いていた道を外れて声をかけて

しまう。

 月明かりの下で病的に青白い肌を白いド

レスで包んだ清水に黒い猫耳と黒いしっぽ

をつけた牧村が体を絡ませている。

 牧村の衣装がやたらと露出度が高くて目

のやり場に困るとか、あまりに青白く見え

る清水が心配だとか、とにかくそのまま放

ってはいけない状況だった。


「ねぇ、ニンゲンだよ。ニンゲンが来たよ」

「そうね、ニンゲンね」

「ニンゲン、久しぶりだね。

 遊んじゃう?それとも食べちゃおうか?」


 まるで糸が切れた操り人形のように黒猫

の牧村に体を預けている清水と、その清水

を包み込むように抱きしめたまま腕や尻尾

を絡ませている黒猫の牧村。

 羨ましいと、素直に思えるような状況で

はなかったし、かといって二人の間に割っ

て入れるような空気でもない。

 割って入ったら、むしろ俺が“邪魔者”

になるんだろうなという空気があった。





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あきゅろす。
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