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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「はぁっ、はぁっ、あぁもうっ…!」


 肩で息をしながらさんざん体に張り付く

ように纏わりついていた蜘蛛の巣を引き剥

がす。

 それでも時間が1秒でも惜しくて、最後

の棺の蓋を開いた。

 そこには…。





 全ての始まりは、そうあそこから。

 気づいた時には蔓の絡まる門の前にボー

っと立ち尽くしていた。

 右手には外したばかりであろう仮面、左

手に持つ籠の中には個装された数枚のクッ

キーと色あせた手紙。

 なんでこんなところに立っているんだろ

う?

 しかし振り返ってみたものの背後はうっ

そうと茂る深い森。

 夜の闇が口を開けて手招きするその森に

足を踏み入れようとは思えなかった。

 門の先にある古びた洋館からからのみ灯

りがもれている状況では、いくらその前に

広がる墓地が見えていたとしても足を踏み

入れないわけにはいかなかった。

 錆びた門をギギッギギギ・・と押し開く。


「す、すみませーん…」


 冷たい夜風に吹かれて嫌でも震える声で

声をかけるが返答などあるはずもない。

 門を開いて一歩踏み入れた古びた洋館の

目の前に広がる洋墓の群れは恐怖を誘うも

のがあり、すでに言葉もなく立ち尽くすし

かない。


 ギギギ…


 重くて開くのに苦労した門が背後で閉ま

る音がする。

 驚いて振り返ると、巨大なシーツを被っ

た誰かが門を閉じていた。

 つい今しがたまで人の気配すらしなかっ

たからビクッと体が震えてしまう。


「あ、あのっ」


 頭からシーツを被った姿なんて日常の中

で見たらそりゃ滑稽で笑ってしまうだろう

けど、これだけ異様なホラーの世界観の中

に溶け込んでしまえるだけ日常とは違う雰

囲気を醸し出していた。

 シーツお化けは無言のまま手に持ってい

たカボチャのランタンの明りを俺の顔の前

にもってくる。

 ランタンの不気味な笑い顔の向こうで仕

込まれているであろうロウソクの火がゆら

りと揺れる。

 俺の顔を確認してからシーツのお化けは

古びた洋館へとゆっくりと歩き出した。

 2回か3回振り返ってこちらを確認して

いているということはついて来いというこ

とだろうか。

 俺はこんな場所に取り残されるのも嫌で

慌ててシーツお化けの後を追った。


「ハロウィンの発祥は古く、イギリスやア

 イルランドに住んでいた古代ケルト人と

 されている。

 古代ケルト暦では11月1日から10月

 31日が1年とされ、日本で元旦とされ

 る11月1日はサムウェイン、大晦日は

 ハロウィンと呼ばれた」


 周囲の異様な空気に呑まれて、唐突に始

まったその話を遮れずに聞いていたけれど

この声はどこかで聞き覚えがある。

 シーツを被っているとは思えないほどよ

く通るその声。

 ややあってその人物を思い当たって思わ

ず話を遮って声を出してしまった。


「カイルっ?カイルなのか!?」


 しかし日頃から忌み嫌っている俺の話な

んて聞くつもりがないのか、あっさりとス

ルーしてシーツお化けはその先を続けた。


「古代ケルト語でサムウェインは夏の終わ

 りを意味し、その境の日になるハロウィ

 ンには死霊が家に戻り魔女や悪霊が街を

 歩くと考えられ、人々は仮面をかぶって

 身を守ったり神に供物を捧げて荒ぶる神

 の気を鎮めようとした」


 言われてハッとする。

 さっきまでもっていた仮面は、もしかし

てそれなのか…?

 仮面を持っているなんてただの偶然とは

考えられないような気がする。





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