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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「じゃあ何ですか?」

「その…どうせ食べないと思うけど」


 コレ、とラッピングしたチョコレートを

差し出す。

 嫌そうな顔するだろうなぁと思っていた

のに、兄貴はどんな表情も浮かべずに俺の

差し出したものを見つめている。


「これは?」

「チョコレートだよ。

 見ればわかるだろっ?」


 受け取ってさえもらえないのかと気持ち

が挫けて思わず語尾が上がってしまう。

 今まで毎年捨てられてきたチョコレート

の山に恨まれてるんだと訳のわからない被

害妄想じみたことまで思い浮かんできて、

いらないならさっさといらないって言って

くれと心が悲鳴を上げる。


「手袋もマフラーもいらないって言っただ

 ろっ。

 だから…」


 一気にまくしたててずいっとチョコレー

トを突き出すと、あっけないほどにすんな

りそれは兄貴の手に渡った。

 バレンタインにはチョコレートどころか

匂いまで嫌いだと言って憚らない兄貴の手

にだ。

 勢いに任せてしまったものの、この後ど

うするんだろうと思わずじっと見つめてし

まった。


「…さっきガトーショコラ食べたばかりな

 んですが」


 甘いものはうんざりだという表情があり

ありと浮かぶ。

 特に今日はたとえ一口でも食べれば家族

サービスは終わっただろうと考えているん

じゃないかと思える兄貴にとって、さらに

チョコレートをもらうのは嬉しくないに違

いない。


「それは甘くないから…。

 ビターだったら食べるだろ、兄貴」


 俺の言葉に返事を返さずに兄貴はラッピ

ングを解く。

 中身は細かく砕いたナッツがのぞくチョ

コレート3つと一見普通に見えるチョコレ

ートが3つ。

 中に手を入れた兄貴の指先がナッツ入り

の方を摘む。


 まさか、食べてくれんの…?


 萎みかけた気持ちが急速に膨らみ始め

る。

 少しでも嫌な顔をしたら絶対に食べてく

れないと思っていたのに。


「…どう?」


 小さなチョコがその口内へ消えてから数

秒、我慢していたけど不安に駆られて思わ

ず聞いてしまった。


「あぁ、美味しいですよ」

「あの、ホントに?お世辞じゃなくて?」


 あまりにも表情が変わらないのにあっさ

り言うから思わず念押ししてしまった。

 さっきダイニングで甘いガトーショコラ

を食べながらだって兄貴は同じ顔で同じこ

とを言ったからだ。





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あきゅろす。
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