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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 そんなわけでいつもは兄貴の部屋まで運

んでいるチョコのいっぱい詰まった紙袋は

今もリビングの隅にちょこんと鎮座したま

ま。

 これが次の燃えるゴミの日には分解され

て捨てられていることは家族だけの秘密

だ。

 曲りなりにも貰った物だからと自分で食

べたり近所の子に分けてあげていたりして

いたんだけど、5年前から兄貴はぱったり

それをやめてしまった。

 普段から菓子を食べないからわからない

けど、チョコレート自体が嫌いなんじゃな

い…と思う。

 ただバレンタインにチョコを渡したとし

て、それを食べてくれるのかと言ったら疑

問だ。


 それなのに作っちゃった俺も俺だけど

さ…。


 でもせっかくのバレンタインだし、何か

したかった。

 毎年兄貴に一口も食べられることなく捨

てられるチョコの山を見ていてもなお、そ

れらしいことをしたかったのだ。

 いや本当はチョコをあげるかどうかなん

てどうでもいい。

 兄貴が俺のあげたチョコレートを食べて

くれなくても、いい。

 ただバレンタインにかこつけて聞きたい

んだ。

 兄貴の気持ちを。


 先月に二人で旅行に行ってから、目に見

えて兄貴の態度が変わったかと言われたら

首を傾げてしまう。

 そのくらい兄貴は今までと何一つ変わら

ない。

 相変わらず冷めた目をしてるし、意地の

悪い言動をするし…恋人らしいことを何か

したのかと聞かれたら答えはNOだ。


 …まぁセックス始めたら離してくれない

し、見えそうなギリギリなところにキスマ

ークつけまくるのはやめてほしいけど。


 でも世間一般でいうところの“甘い空

気”というのとは無縁で、どうも今までの

延長のような気がして仕方ない。

 “もっと恋人らしいことしたい!”とは

言わないけど、もっと甘い空気とか恋人ら

しいところがあってもいいと思う。

 我儘を承知で言うなら、少しくらい俺に

優しくしてくれてもバチは当たらない、と

思う。


 そんなこと直接言ったって聞いてくれな

いだろうからバレンタインにかこつけて…

なんて甘いんだろうか。


 世間一般と兄貴のバレンタインの印章は

180度違う。

 街が幸せな甘い香りで包まれても、兄貴

にとってバレンタインはチョコを端から断

らなきゃならない上に胸焼けがしそうなく

らい甘ったるい匂いのたちこめる嫌厭すべ

き日だ。

 そんな機嫌の悪い日に、機嫌が悪くなる

物を贈って優しくしてほしいなんて言って

も無駄なんだろうか。

 チョコの代わりにマフラーや手袋も考え

たけど、どんなのがいいのかさりげなく探

りをいれてみたら「今持っているので充分

ですから」とあっさり言われた。

 で、悩んだ末にビターなら食べてくれる

んじゃないか?という結論に至ったわけ

で。





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