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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 “お兄ちゃん”とべったりくっついてく

る麗を可愛いと思いながらもいつまでもそ

のままでは困ると心配していたことなど嘘

のようだ。

 それが無くなって寂しいと思ってしまう

のはきっと俺の我儘だろう。

 いや“兄弟だから”と何度も繰り返して

きたのは俺の方で、その俺が兄貴を選んで

おきながら麗にもこれまで通り甘えてほし

いと思うのは矛盾しすぎている。

 麗が望む、麗が傷つかないでいられる距

離を保つことしか俺にはもうしてやれない

から。


「お兄ちゃん」

「へっ?」


 考え事をしていた横から声をかけられて

思わず変な声が出た。

 自分でもマヌケだと分かる声で恥ずかし

くなる俺を見て、麗が何事もなかったよう

にクスクスと笑った。

 ただそれだけでぐっと周囲の空気が軽く

なって、俺はほっと胸を撫で下ろした。


「メレンゲ、このくらいでいい?」


 そう言って麗がハンドミキサーを持ち上

げると白く泡立ったメレンゲが持ち上がっ

て角ができる。


「ボウルをひっくり返してもこぼれなかっ

 たらOK」

「じゃあもうちょっと混ぜるね」


 そう言って麗はハンドミキサーで再び混

ぜ始め、俺はメレンゲが出来上がる頃には

仕上がるように生クリームとブランデーを

それぞれ投入しながら手早く混ぜた。

 すでに振るっておいた小麦粉とココアパ

ウダーを入れてゴムベラで混ぜると粉の分

だけ重くなった内容物は水分を失ってぐっ

と重たくなる。

 それでもここでちゃんと混ぜておかない

と美味しくならないから、余計なことは考

えずにただ混ぜることだけに集中した。


「お兄ちゃん、見て?」


 こちらがしっかり混ぜ終える頃、麗がハ

ンドミキサーを止めてボウルをひっくり返

した。

 しっかりと角が立ったメレンゲはボウル

をひっくり返しても中身は零れることはな

かった。


「うん、お疲れ様。

 じゃあそのメレンゲを1/3こっちに入

 れてくれるか?」

「はーい」


 麗がメレンゲを入れてくれている間に泡

だて器に持ち替えて重くなっている中身に

しっかり混ぜる。

 混ぜながら中身がメレンゲと馴染んでく

ると最初は重かった泡だて器の動きがスム

ーズになっていく。

 ここでしっかり混ぜたら今度はゴムベラ

に持ち替えてまた1/3を投入する。

 今度はしっかり混ぜないでメレンゲの白

い色が見えなくなったら残りのメレンゲを

全部入れて白さがなくなるまでざっと混ぜ

る。

 ここであまり混ぜすぎるとケーキを焼い

た時に膨らまない、と母さんが言ってい

た。





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