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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 店を出て真冬の寒さにコートの下の体を

すくませながら街を歩く。

 歩きながらまだ返信していなかった麗か

らのメールに返事を書く。


《今バイト終わって店出たところ。

 家に帰って色々してたら日付変わるから

 電話ならまた明日な?》


 電話するにしてもいちいち確認をしてく

る麗は本当に俺の体のことを考えてくれる

と思う。

 以前から俺を困らせるようなワガママを

言っても俺がダメたと言ったら諦めていた

麗だけど、そんな可愛いワガママも俺が一

人暮らしをするようになってからはほとん

ど言わなくなった。

 そういう麗の成長を喜びながら、でも心

のどこかで寂しいと思ってしまう俺のこの

気持ちもワガママなのかもしれない。


 終電に乗って一人暮らしのアパートに帰

る。

 灯りの消えた部屋に帰るのに未だ慣れな

いなんて誰にも言えないけど。


「あれ…?」


 玄関の横にあるキッチンの窓から光が漏

れている。


 消し忘れた?

 いや、昨日の夜ちゃんと消したはずだ。

 朝にはわざわざつけるはずもないし…。


 もし空き巣だったとしても堂々と電気を

つけるだろうか?

 訝しみながらそっとドアを開けると、美

味しそうな匂いが鼻をついた。

 それが焼き魚とみそ汁の匂いだと気づい

たのは奥から麗が姿を見せた時だった。


「あ、お帰りなさい」

「た、ただいま…。

 あれ…来るって言ってたっけ?」


 とりあえず玄関のドアを締めてスリッパ

を履きながら、先程のメールを思い出す。


「ビックリさせようと思って、母さんから

 鍵借りてきたんだ。

 バイトも遅くまでやるって聞いてたから

 ご飯作っといたよ。

 もう食べてきちゃった?」

「いや…まだ、だけど」

「じゃあちょうどよかった。

 明日の分まで作っちゃったから一緒に食

 べよ?」


 麗に促されて奥の部屋に行き、鞄を下ろ

してコートを脱ぐ。

 すでに部屋は暖房で温められていて、冷

え切った体にじんわりと熱が染み込んでい

く。

 ほっと体から力が抜けていくのを感じな

がらテーブルにつくと、麗が作ってくれた

夕食を盛り付けて運んできてくれた。

 一人暮らしになってから学校とバイトの

両立だけで忙しくて、食事なんて疎かにな

りがちだ。

 帰りに買ってきてしまうこともあるし、

疲れすぎて食べない時もある。

 たまに自炊してみてもちゃんと品数を揃

えることなんて稀だった。

 だからこんな風にしてくれるのはありが

たい。

 世のお父さんはいいなぁと一瞬思ってし

まって、ハッと思い直す。


 あ、あれ?

 つまり新婚みたいってこと…?





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あきゅろす。
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