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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 浴衣とタオルを片手に部屋を出て向かっ

た先には広々とした内湯や石風呂がいくつ

もある大浴場だった。

 体を洗って汗を流してから、まずは外の

寒さに耐えながら石風呂に向かってその中

に体をゆっくりと沈める。


「ふぅ…」


 寒さに凍えた体にお湯がじんわりと染み

込んでいくようで緊張と共に吐息を湯煙に

溶かす。

 目を外に向ければ雪化粧をした庭園に雪

が舞っていて、難しいことは分らないまで

も風流とか風情とかいう言葉が頭を掠め

る。

 完全に日常から切り離された空間がそこ

にあった。


「あれ…兄貴こっち来たんだ?」

 中途半端な時間だったせいか貸しきりだ

と喜んでいたから、てっきり内湯のほうへ

向かうだろうと思っていた兄貴が来ていて

驚く。

 あちらも檜の香りで捨てがたかったとか

思っていたら広い石風呂なのにわざわざ隣

まで兄貴がやってきて腰を下ろす。


「僕がこっちに来たら、何なんですか。

 何か不都合でも?」

「いや、そういうんじゃないけど…」


 今までの経験上、何となく反射で腕が触

れそうな距離だと悟って景色を見るフリを

して距離をとる。

 貸しきり状態とはいえ、まさか大衆温泉

でいかがわしいことをするような性格では

ない…とは思うけれど念の為。


「なんか…今まで兄貴と二人で旅行とかし

 たことなかったし、変な感じがする」


 石風呂の縁に両肘をのせて凭れかかりな

がら呟くと、すぐ隣から兄貴の声が聞こえ

た。


「行こうと思えばこれからいくらでも行け

 るでしょう。

 社会人になれば自由にできるお金は増えま

 すから」

「そう、だけど…」


 俺は今日のことを言ってるんであって、

次からのことなんてまだ……それとも次が

あるって思ってていいってことなのか…?


 ただでさえ温められた心臓は妙にうるさ

くなって、これ以上頭に血が上る前に落ち

着けと自分に言い聞かせる。


 一人で舞い上がって、その気の無い兄貴

の言葉に傷ついてたらバカみたいじゃない

か。





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あきゅろす。
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