悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*
聞いているのかいないのか、兄貴は本を
読みながら返事をしなかった。
…俺だって考え無しについてきた訳じゃ
ないのに…。
絶対に口には出さないけれど、心の片隅
でボソッと呟く。
兄貴は無事に第一志望だったK大法学部
に現役合格し、春から一人暮らしが決まっ
ている。
そうなれば今までのように同じ空間で同
じように過ごすことは殆ど無くなってしま
うだろう。
物心つく前から今まで、兄貴と暮らさな
かった日は一日だってなくて…兄貴のいな
い生活っていうものがどういうものなのか
今はまだ想像できない。
日頃どんなに憎まれ口を叩いていようと
も傍にいなくなるのはやっぱり寂しい。
だから旅行の準備をしろと急かすだけの
兄貴にも、これがゆっくりできる最後のチ
ャンスかもって思ったからついてきた。
なのに…。
ちょっとでも期待して損した…。
バカ兄貴。
兄貴が手を出してこようとしたって絶対
にさせてやるかと心の中でブツブツ続けな
がら、目的地に到着するまでシートに体を
埋めて束の間の眠りに落ちた。
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