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悪魔も喘ぐ夜
*


 わかっていた。

 黒を白に変えるほどの決定打がなければ

兄貴の考えを覆すことなど出来ないことは。

 でも納得してくれなんて無茶は言わない

から、ただ俺の考えは知っていてほしい。


「クロードのしてきたことが客観的に見た

 ら決して善意だけじゃないのも、打算的

 な考えもあるんだろうっていうのも解っ

 た。

 だけどさ、兄貴が言うようにクロードっ

 て一番身近にいる“フェロメニアを手に

 入れたい淫魔”なんだよね。

 しかもクロードはその気になりさえすれ

 ばいつでも俺を捕えてしまえるだけの実

 行力がある」


 放課後の教室で聞いたカイルの言葉が耳

の奥で蘇る。

《お前のような阿呆を本国へ連れ帰れるな

 ど容易い。

 それでもそれをせずお前の返答を待って

 下さっているクロード様の温情が何故わ

 からんのだ》

 一番クロードの身近にいるカイルがそう

言うのなら実際そうなのだろう。

 俺自身も解っていた。

 そんなこと言われるまでもなく、俺自身

が感じていた。

 でも今までクロードと接してきて、俺自

身が気づいたり感じたこともある。

 あれだけ自信に満ち溢れたクロードなら、

おそらく卑劣な手段は使ってこない。


「それでもクロードはそれをしない。

 それは兄貴の言う通り俺を泳がせている

 だけかもしれないし、もしかしたら俺達

 は知らない事情があるからかもしれない。

 だけど…クロードは俺に無理強いするよ

 うなことはしないと思う」

「ですから、それは」

「最後まで聞いて」


 否定しようとする兄貴の言葉を遮った。

 まだ最後まで言ってない。

 全部言い終わってから口を開いてほしい。


「クロードが今まで俺を捕えようとしなか

 ったのは打算的な考えもあったかもしれ

 ないけど、それだけじゃないんじゃない

 ような気がする。

 きっとクロードは俺の将来からクロード

 の影を完全に消してしまわない限りは、

 手出ししてこない、と思う」


 これは確証も何もない直感だ。

 今まで俺がクロードと関わってきた中で

感じていたこと。

 クロードを信じてるとかそんなんじゃな

くて、クロードならそう考えるんじゃない

かって思うこと。

 クロードの驚くほどの原動力が鋼のよう

な自信や誇りから生まれるものなら、それ

を自分の手で汚すような真似はしないんじ

ゃないだろうか。

 それは他でもない自分自身を貶める行為

だから。


「思う、なんて寝言は聞きませんよ。

 駆はあの男がその気になればいつでも手

 が出せる場所に毎日通っているんですよ?

 仕事でどれほど忙しかろうが関係ありま

 せん。

 その合間に気が変わって、駆を浚おうと

 思えばいつでも浚ってしまえるでしょう。

 逆に言えばいつでも浚ってしまえるから

 泳がせていられるんです、自分の目の前

 でね。

 それでも違うのだと言い切るのなら、誰

 が聞いても納得するような確証があるん

 でしょうね?」


 下手な誤魔化しや逃げは許さないという

容赦のない目が俺を串刺しにする。

 ここまで言われてそれでも楯突くからに

はそれなりの納得できる確証がなければ許

さないという無言の圧がかけられる。

 だがそんなものは、ない。

 ただ俺がそう感じる…でもそれじゃあや

っぱり兄貴は納得しない。

 納得しないから了解もしない。

 俺が否と答えている限りは、俺の意見が

変わるまで追及をやめるつもりはないとそ

の冴えた目が言っている。





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