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悪魔も喘ぐ夜
*


「これ以上悪化させないでくれますか」

「病院、行く?」

「行くって言わないと、どうせ離さないん

 でしょう?」


 どうやら観念してくれたらしい。

 よかったと腕の力を緩めた途端、兄貴は

腹部を庇うように手をやって壁によりかか

る。

 いくら相手が兄貴でも怪我人相手にやり

すぎたと焦って顔色を窺う。


「ごめん。痛む?」

「謝る位なら最初からしないことです」


 兄貴は俺の頭を掴んで乱雑に突き放すと

体を起こした。


「行くなら行くでさっさとしてください。

 学校に連絡して、病院に行って…午後の

 授業には出ますから」


 こんな体でまだ登校するつもりなのかと

呆れたけれど、病院に行くと言っている以

上はもう何も言うまいと思った。

 もしも授業が受けられないほどひどけれ

ば医師からそう言われるだろう。

 母さんにその旨を話して学校への連絡を

頼むと兄貴と一緒に近所の総合病院に向か

った。

 外科の受付は済ませたけれど、待合スペ

ースを見渡してみると順番はだいぶ後にな

るだろうと思われた。

 とにかく適当なところに座って順番を待

つ。

 明らかに学生にしか見えない俺達に向け

られる視線は感じたけど、それも間もなく

なくなった。

 腰を落ち着けたソファは待合室の角にあ

って、小声であれば周囲の人を気にしなく

ていいくらいには距離があった。


「あのさ、兄貴…。

 何から話せばいいのか分からないんだけ

 ど、とりあえずごめん」

「心当たりがありすぎて、どれに対する謝

 罪か分りませんね」


 兄貴の言うことはもっともすぎて反論は

できないけど、まずはそこから話を始めな

きゃならないと思った。


「俺さ、教室に鞄忘れてたんだ。

 朝起きたら、クロードが俺の鞄を持って

 立ってから…」

「……だから、なんです?

 底抜けの馬鹿だとは思ってましたが、死

 んでも治りそうにない馬鹿ですね、それ

 は。

 勇敢と無謀を履き違えたのか、それとも

 自分の能力を過大評価したのかは知りま

 せんが、周囲の迷惑も考えずに身勝手な

 言動をするような愚か者はどうしたらい

 いと思います?」

「うっ…ごめんなさい…」


 グサグサと突き刺さってくる言葉が耳に

痛いけれど、兄貴はそれだけ心配してくれ

たし、走り回ってくれたし、危険を顧みず

に助けに来てくれた。

 だからこれは黙って聞くしかない。

 そもそもの元凶は俺だろうと兄貴や麗に

言われたら俺は否定できない。





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