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悪魔も喘ぐ夜
*


「そんなこと言わないで。頼むからっ」


 制服のジャケットを着た兄貴の腕を掴ん

で引き止める。

 昨日の今日で、ろくな手当もせずに登校

しようとする兄貴の気がしれない。

 昨日の夜に見ただけだけど、それでもあ

れだけくっきりと痕が残っていたのだ。

 いくら拳とはいえ胸部や腹部にもいくつ

か痕がついていたし、あれだけ筋力がある

クロードの拳でめいっぱい殴られたのだと

したら内蔵にまで何か損傷が及んでいない

か心配でしょうがない。


「素人判断で湿布だけでいいなんて絶対に

 ダメだって!

 頼むから病院に行ってくれよ!」

「…じゃあ病院に行ってどう言い訳しろっ

 ていうんですか?

 受験を控えた大事な時期に学校を休んだ

 挙句に喧嘩沙汰で病院にかかれと?」


 あくまで何でもないと言い切る兄貴の冷

たい目が俺を邪険にする。

 でもそんなことくらいで引いてやるかと

兄貴の腕を掴む手に力を込めた。


「この程度の痛みなら平気です。

 耐えられないほどになったら早退します

 から、さっさと腕を離してくれません

 か」

「やだ。絶対に嫌だ。

 兄貴が病院に行くまで絶対に離さない」


 呆れたように溜息をついた兄貴に、諦め

たのかと一瞬気を抜いたら強引に腕を振り

払われた。


「自分の面倒くらい自分で見られます。

 今日こそは家から一歩も出ずに留守番を

 してなさい。

 帰ってきたらたっぷり、ぐッ…」


 強情な兄貴を睨んでみたけどやはり効果

はなくて…だから手っ取り早く実力行使に

出た。

 このままでは兄貴は本当に病院に行って

くれないと思ったから。


「痛いだろ?

 そんな体で学校なんて無理だ。

 病院に行ってちゃんと検査してくれよ」


 兄貴の腰に回した腕にギリギリと力を込

めると冷めた平静を装っていた兄貴の表情

が崩れる。

 堪えた声の分だけ表情が苦渋に染まり、

俺の肩を掴んだ兄貴の爪が痛い位に肌に食

い込む。


「…誰のせいですか」

「それは…ごめん。

 でも、だからこそ行ってほしい。

 俺の為に行ってほしいんだ。

 兄貴、頼むから」


 受験生にとって欠席がどれだけ重いか…

まして兄貴の志望校を考えればまさに命と

りだ。

 でも…放っておいて取り返しのつかない

ことになったら俺はきっと後悔するから。

 あの時殴ってでも連れて行けばよかった

と後悔するから。

 だから、どんなに我儘だと罵られてもい

いから俺の為に病院に行ってほしい。





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あきゅろす。
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